『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』矢西誠二 編 第四話「おすすめを知る」 グラビアを撮るうえで大事なコミュニケーション「現場入りして約1時間半、一枚も写真を撮らずに喋っていたことがあります(笑)」

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第20回目のゲストは、矢西誠二氏が登場。取材は、氏のお気に入りの場所である吉祥寺・井の頭公園にて。タレントの作品撮りを精力的に投稿しているインスタグラム、グラビアの現場であえて使用されるフィルムカメラなど、その独自のこだわりを聞いた。


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——経歴にまつわるお話が面白すぎて、グラビアに関する具体的な話が聞けないまま第4話になってしまいましたが……、グラビアのお仕事が増えるきっかけは何だったんですか?


矢西 仕事が増えたのは、週プレで撮らせてもらった女優の上野なつひさんのグラビアがきっかけでした(『週刊プレイボーイNo.30』2002年7月23日号)。それより前から週プレや、週プレ以外のグラビア誌でお仕事はさせてもらっていたんですが、上野さんのグラビアは特に反響が良くて。他の現場に行くたびに、お会いしたスタッフさんたちから「週プレで撮っていたね。見たよ」と声をかけていただいたんですよね。


2002年7月23日号『週刊プレイボーイNo.30』より 


——当時、上野さんは17歳。まだデビューして間もない頃だからか、矢西さんが撮影されたグラビアからは、非常にみずみずしい印象を受けます。


矢西 上野さんのグラビアで僕が意識していたのは、彼女を“女優さんとして”撮ることでした。水着ではあるものの、体を見せるのではなく雰囲気を重視させてもらったというか。“芯のある少女”というイメージを目指したんですよね。そう言うと週プレっぽくはないのかもしれませんが、そんな写真に振り切れたのは、週プレで最初にお世話になった編集さんの言葉が影響しています。


——といいますと?


矢西 初めて週プレからお仕事をいただいたとき、「やった、週プレだ。このチャンスを逃すわけにはいかないぞ」と、スゴく意気込んでいたんです。週プレらしい写真を、お仕事をくださった編集さんが納得してくださる写真を撮ろうと、必死に頭を使っていました。まだフィルムカメラの時代だったので、最初にポラロイドを撮ったんですけど、そのポラを編集さんに確認してもらおうと見せに行ったら「わざわざ僕に見せなくて良いですよ」と言われたんですよね。


——「矢西さんが思う良い写真を撮ってほしい」ってことですか?


矢西 はい。近くにいたら意識しちゃうだろうからと、その編集さんは、僕が撮影している時間も、奥の部屋で静かに本を読まれていました。でもそれは「うまく撮れていなかったら、カメラマンの責任だからな」ってことではなくて、「責任は全部、僕(編集者)が引き受けるから、安心して、好き勝手やってよ」という意味なんですよね。“自分で考えて撮る”という状況に、いつも以上に気合いが入ったのを覚えています。実際、撮り終わったあとは手応えを感じましたしね。


——いい話ですね。「責任は全部引き受けるから」と、あえて現場から離れる編集さんの計らいも粋です。


矢西 また、別の編集さんと沖縄ロケに行かせていただいたときに、その場で僕のほうから「温水プールの中で水中写真を撮りたい」と提案させてもらったことがあって。その編集さんは「面白そうじゃん」と、わざわざスタジオに追加料金を払ってまで、僕の咄嗟の提案に乗っかってくださったんですが、最後の最後まで、うまく撮れた実感が持てなかったんです。


申し訳なさと不安でいっぱいになり、すぐ編集さんに謝りに行かせてもらうと、「失敗の中から良い写真が生まれるんだから、どんどん失敗して」「他にも挑戦してみたいことがあったら何でも言ってよ」と、僕を責めるどころか、むしろ強く背中を押してくださったんですよね。


——こ、これまた良い話……!


矢西 失敗を恐れて挑戦を辞めてしまうくらいなら、失敗しながらでも、ひとりの女の子の成長を一緒に見守っていこう、と。雑誌業界がギラギラしていた時代性もあるんでしょうけど、当時は、そんなふうに言ってくださる編集さんが多くて。今思い返しても、本当に週プレの編集さんたちには、クリエイティブの意識をたくさん学ばせていただきましたね。


——では、そんな駆け出し時代を経て、キャリアを重ねられた今、矢西さんがグラビアを撮られるうえで大事にされていることは何ですか?


矢西 その場にいる全員が安心して臨める楽しい現場作り、ですかね。僕、撮影前の打ち合わせでは、必ず“肌露出の限界”を決めておきたいと思っているんですよ。ある程度は編集さんがタレントさんや事務所の方に確認してくださっているのですが、まれに「現場で判断しましょう」と撮影当日を迎えることもあって。そういうときは、現場での衣装合わせのタイミングで、女の子とマネージャーさん、編集さん、スタイリストさんを集めて、「できること/できないこと」をハッキリ聞くようにしています。


曖昧なまま撮影を始めてしまうと、最大限のクリエイティブが発揮できなくなってしまいますから。例え、それで“売れる写真”が撮れたとしても、辛い現場にはしたくないですよ。


——本来ならば編集者が明確にしておくべきところなんでしょうけどね。そういう意識で撮影されている矢西さんとなら、女の子も安心して撮影に挑める気がしますよ。


矢西 まぁ、聞きづらいシーンがあるのも分かりますから。編集さんに対して物申したいわけではないです。ただ、仕事として、撮影者となる自分の責任として、大事にしている意識ですね。


——ありがとうございます。駆け足になりますが、毎回恒例の質問に移らせてください。「週プレ グラジャパ!」の作品からお気に入りの一冊を選ぶとしたら、どの作品ですか?


矢西 あえて1作品を選ぶなら、滝裕可里さんの『「え!? 私にグラビアのオファーですか?(笑)」』ですね。彼女が『仮面ライダービルド』にフリージャーナリストの滝川紗羽役で出演中だった2018年、30歳にして約8年ぶりとなるグラビアを撮らせていただいたのですが、本人から意見を聞きながら、こだわりに寄り添うカタチでイメージを作っていったんですよね。


 

滝裕可里『「え!? 私にグラビアのオファーですか?(笑)」』


——当時のインタビューを読ませていただくと、撮影前には1時間半もカメラの話で盛り上がっていたそうですね(笑)。


矢西 そうそう(笑)。「いつも息子と『仮面ライダー』を見ていて」なんて話まで、させていただきました。スタジオに入って1時間半も写真を撮らずに喋っていたのは、後にも先にもこの現場だけです。担当編集さんも、黙って僕らの会話が終わるのを待ってくださって、いざ撮影を始めたら、めちゃくちゃ良い写真が撮れて。滝さんもノリノリになって、自発的に自己表現をしてくれました。1時間半に及ぶ会話が良い影響を与えたとは言い切れませんが(笑)、滝さんも、現場にいたスタッフさんも、みんなが「良いグラビアだ」と喜んでくださったし、僕もスゴく気に入っていますね。


——先ほどの「できること/できないこと」をハッキリ聞くというお話にも通ずると言いますか。1時間半に及ぶコミュニケーションが滝さんに安心感を与えたからこそ、撮れたグラビアなんでしょうね。では、最後に今後の展望について教えてください。


矢西 以前、週プレで約5年間にわたり、担当編集が三度変わっても継続的に撮らせてもらった女優さんがいて。芸能活動を始めたばかりの頃から、朝ドラへの出演が決まるまでのステップを、ずっと近くで見守らせてもらったんです。他誌でも、プライベートでも撮らせてもらって、結果的に約7年のお付き合いになったのかな? いろんな話をして、いろんな感情を共有して。もう引退されてしまったんですが、いまだに忘れられないモデルさんなんですよね。


……何が言いたいかというと、グラビアって、どうしても一期一会の現場になりがちじゃないですか。だからこそ、かつて撮らせてもらったあの女優さんのように、ゆっくり関係性を築きながら写真を撮り続けられる“誰か”と出会いたいなって思いますね。


第21回ゲストは、橋本雅司氏が登場! 2023/5/12(金) 公開予定です。お楽しみに!!


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矢西誠二プロフィール

やにし・せいじ ●カメラマン。1972年生まれ、徳島県出身。

趣味=作品撮りの撮影(作品はインスタグラムをチェック)

カメラマン・渡辺達生氏に師事し、1999年に独立。

主な作品は、片岡安祐美「TOUCH UP!」、飯豊まりえ「NO GAZPACHO」、森咲智美 「T&M」「Utopia」、坂ノ上茜「あかねいろ」、北向珠夕「M~気の向くままに~」、竹内花「花の蜜」など。

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