『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』橋本雅司 編 第四話「おすすめを知る」 山地まり写真集『処女』を撮るにあたって彼女に放った厳しい言葉「ただ綺麗なだけじゃなく、読者に訴えかける“何か”がないと」

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第21回目のゲストは、安達祐実『17歳』や山地まり『処女』など、数々の女優・タレント写真集を手がけてきた橋本雅司氏が登場。過酷なスタジオマン時代を西田幸樹氏と共にし、巨匠・篠山紀信氏のもとでアシスタントを務めた氏が考える“被写体への向き合い方”とは。浅草にある氏の事務所にうかがい、話を聞いた。


橋本雅司作品のデジタル写真集一覧はコチラから!


——橋本さんといえば、2015年に発売された山地まりさんのファースト写真集『処女』。「まだ未完成な私」といった意味が込められているそうですが、タイトルとヌーディな表紙がとても印象的でした。



橋本 この写真集は、俺もスゴく印象に残ってる。というのも、写真集の前に何度か本誌で撮らせてもらったんだけど、直前の撮影が全然良くなかったんだよね。ダメじゃないんだけど、「写真集一冊を撮るのに、それじゃつまんねぇんじゃないの?」って、彼女を叱ったんだよね。


——そ、そうだったんですね……! 「つまらない」というのは?


橋本 グラビアって、綺麗なだけじゃ物足りないと思うんだ。表面だけ取り繕っているようじゃ、先がないっていうか。写真だけを見た読者に「この子、何て名前なのかな?」って興味を持ってもらうには、ただ綺麗なだけじゃなく、心に訴えかける“何か”がないと難しいよね。


撮影中、よく女の子に「誌面を通して、読者と親友になって貰わなくちゃ」って話をするんだけど、親友っていうのは、良いところもダメなところも知っているから成り立つ関係性であって、綺麗事だけで収まるはずがないんだよ。


逆にいえば、どんなに美しくて遠い存在に感じるような人でも、泥臭い部分なんかがポロっと出てくると親近感が湧いてくる。「それでも私、やっぱり人前で表現することがしたいんだ」って気持ちを見せてくれたら、グッとくるよね。そういう“人間として背負っているもの”を持って写真と向き合うことができれば、誌面を通して親友になれそうじゃない? 


恐らくだけど、そういう部分を隠して、綺麗に自分を見せようとしている感じが伝わってきたから、強く言ってしまったんだと思う。「それなら、写真集をやっても意味ないよ」って。


——なるほど。それでも、結果的に山地さんのファースト写真集を撮られているわけですけど、その後どういう経緯があったんでしょう。


橋本 担当編集が、食事をセッティングしてくれて、そこで本人と話させてもらったんだよ。そしたら「橋本さん。私、一生懸命やりたいです」って、山地さんが俺に言ったんだ。そこに誠意を感じたというか、今の山地さんなら、良いグラビアが撮れるんじゃないかと、俺も引き受けたいと思ったんだよね。実際に、ちゃんと良い写真集になって良かったよ。


山地まりファースト写真集『処女』サンプルカットより


——叱るにも気持ちが必要ですからね。厳しい言葉だったとはいえ、山地さんも、ちゃんと伝えてもらえたことが嬉しかったんじゃないでしょうか。


橋本 今どき、そんなこと言うやつもいないよね(笑)。でも俺は、山地さんに限らず、思ったことはちゃんとモデルさんに伝えるよ。それは、俺のほうが偉いってことじゃなくて、お互い近い目線で、誠意を持って向き合えたほうが“伝わる写真”になると思うからなんだ。中途半端に撮るくらいなら、どんなに夕陽が綺麗なロケーションが目の前にあったとしても、撮らずに撮影を切り上げる。


それでも、また次の機会でご一緒させてもらって、今度は良いカタチで撮影を終えられることもある。人によりけりだけど、そういうやりとりを経てでも、気持ちの部分で握手ができたら良い写真が撮れているはずなんだよね。


——それが、グラビアにおけるカメラマンとモデルの向き合いかたとして理想的であると。


橋本 と言っておきながら、歳をとったからか、最近はそんなふうに何か言いたくなることも少なくなってきた。「じゃ、ここ立ってみて。うん、かわいいー」みたいな(笑)。気持ちに嘘はつけないし、こればっかりは仕方がないね。だから本当は、もう少し自分の気持ちを立てて向かっていけるような、若いカメラマンがグラビアを撮っていったほうが良いんだと思う。なかなか(三話で話した安達)祐実ちゃんや山地さんのような関わり方っていうのは、もうできない気がするよ。


——年齢差が開けば開くほど、モデルさんに対して向けられる気持ちも変わってきますもんね。


橋本 そうだね。今、グラビアじゃないところで撮影することのほうが多くなってきたのは、それも一因としてあると思う。ただ、誠意を持って向き合うとか、モデルさんと気持ちの部分で握手ができるかどうかとか、そういう感覚は変わらないよ。


ここ数年、浅草のストリップ劇場「ロック座」の写真集やブロマイドを定期的に撮らせてもらっていて。ステージを撮るわけだから、グラビアと同じように握手ができるってものでもないんだけど、20日ごとに演目が変わって、それに応じて舞台に立つメンバーが変わるたびに撮りに行かせてもらうことで、心の距離感がグッと縮まってくるところはあるよね。家から自転車でササっと行けるし、スゴく良い仕事だよ(笑)。


——インタビュー中、「誠意」や「握手」という言葉が何度も出てきました。ときにモデルさんを叱ることがあったという話ですが、それくらいの気持ちで向き合うことが、グラビアを、女の子の未来を変えるんだなと、スゴく大切な関わり方を教えていただいた気がします。最後に、今後の展望をお聞きしてもよろしいでしょうか。


橋本 さっきと言っていることが違うかもしれないけど、グラビアは、また撮りたいって思うね。今の俺としての関わり方がちゃんとあるはずだから。……友蔵と握手って感じかな。


——と、友蔵?


橋本 『ちびまる子ちゃん』に出てくるおじいちゃんだよ。俺、友蔵に似てるでしょ(笑)? そんな俺と握手することで……っていうと変だけど、グラビアからスーパースターになり得る女の子が出てきてくれると嬉しいよね。


第22回で、本連載は最終回。ゲストは、集英社の社員カメラマンとして1970年代より数々の現場を経てきた中村昇氏が登場。2023/6/9(金) 公開予定です。お楽しみに!!


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橋本雅司プロフィール

はしもと・まさし ●カメラマン。1958年生まれ、東京都出身。

趣味=ゴルフ

写真家・三木淳氏、篠山紀信氏に師事し、1986年に独立。

主な作品は、安達祐実「17歳」、仲間由紀恵「20th」、上戸彩「SEPTEMBER FOURTEENTH」、沢尻エリカ「erika」、磯山さやか「ism」「GRATITUDE ~30~」、満島ひかり「あそびましょ。」、ほしのあき「秘桃」、吉高由里子「吉高由里子」、道重さゆみ「La」、小向美奈子「花と蛇 3」、武井咲「風の中の少女」、剛力彩芽「Shizuku」、山地まり「処女」、小芝風花「風の名前」、岸明日香「明日、愛の風香る。」、熊切あさ美「Bare Self」、芹那「Serina.」、塩地美澄「瞬間」など。

ほか、10代の頃から撮り続けているという俳優・早乙女太一の写真集や公演ブロマイド、東京浅草のストリップ劇場「浅草ロック座」の写真集なども手掛けている。

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