『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』中村昇 編 第四話「おすすめを知る」 写真は“生き方”——。氏が語るグラビアへの素直な思い「グラビアの文化であり歴史である週プレ編集部が今後も残り続けてくれたら、それで良いよ」

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


最終回のゲストは、集英社の社員カメラマンとして1970年代より『セブンティーン』や『月刊プレイボーイ』、『週刊プレイボーイ』などで活躍を続けた中村昇氏が登場(2008年に定年退職後、現在もフリーのカメラマンとして活動中)。写真とは? ヌードとは? グラビアとは? 印象深い仕事を振り返るとともに、今の思いを聞いた。


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——時代の変化に応じて、紙よりもデジタルが主流になるなど、グラビアの在り方も変わってきつつあります。50年近くにわたりカメラマンとしてお仕事されている中村さんから見て、今のグラビアは、どんなふうに映っていますか?


中村 毎週、週プレ編集部から送られてくる見本誌を興味深く拝見させてもらっているんですけど、当然、僕らの時代とは感覚が違いますよね。ヌードのページもほとんど無くなってしまったし。恐らく今は、僕が憧れていた“スキャンダラスな匂いのある写真”が求められる時代ではないのかなって印象ですね。


——生っぽさよりも、綺麗さや可愛さが重要視される傾向はあると思います。もちろん、生っぽい写真が好きな方もいらっしゃいますけど。誰もが気軽に写真を加工できる時代。綺麗に見せることは、もはや礼儀みたいになりましたね。


中村 今はレスポンス(写真の修正)が当たり前だもんね。最初は「冗談じゃない!」って思ったよ(笑)。レスポンスがない時代から撮ってきた身としては、あとで修正することを前提に撮影するなんて、情けなくて仕方がないっていうかさ……。


東欧美女のヌードを撮らせてもらったとき、お腹に残っていた盲腸手術の酷い傷跡もそのまま載せさせてもらったって話をしたじゃない? 僕はそれが“写真”だと思うんですよ。何でもかんでもレスポンスで誤魔化していたら、そこに写真の力は残らないよね。


——レスポンスに気を遣う気持ちも分かる反面、修正ありきの撮影は、写真としての面白さを潰してしまっているようで、何とももどかしいです……。


中村 それこそ昔は、ニップレスもなかったんですよ。実際に、とある有名な女優さんの撮影で水着の上から胸が透けて見えてしまっていたことがあったんですけど、「昇さんに撮られてしまったんだから、仕方がないですね」って、そのまま写真を掲載させてもらいました。


撮れてしまったものは、全てカメラマンの作品になる。レスポンスの選択肢がなかった時代とはいえ、そういうふうに理解してもらえたのは、僕と女優さんの間にちゃんと“関係性”があったからだと思う。それでも、事前に打ち合わせをして、ラインは引いていましたけどね。


——ニップレスの有無だけでも、写真の印象は大きく変わりますよね。透けるか透けないかではなく、表情に走る緊張感が違うというか。


中村 その点、最近撮らせてもらった中だと、橋本マナミさんは良かったね。彼女とは、週プレの撮り下ろしで初めてお会いして、そのときの写真を本人が気に入ってくれた関係で、ワニブックスから写真集を出させてもらったんですけど(2014年発売『あいのしずく』)。


彼女が売れずに苦労した時代の話を聞いていたから、写真集を撮る前にハッキリ伝えたんです。「やるなら覚悟が必要なんじゃないか」「中途半端な写真じゃ売れないよ」って。彼女が僕の写真を好きでいてくれて、僕も彼女のことを知っていたからこそ、伝えられた言葉です。彼女も彼女で、僕の言葉を素直に理解してくれて。結果的に、ニップレスをつけていない挑戦的なカットが表紙になりました。これ、結構話題になったんですよ。


——『あいのしずく』は橋本さんにとって10年ぶりの、30歳の節目に刊行された写真集ですね。着衣ではあるものの、ポチッと突起が浮いていて、ヌードに近い感覚を覚える表紙が刺激的です。


中村 そうでしょう? 良い写真だよね。僕が思うに、写真は“生き方”なんですよ。ヌードが絶対とは言わないし、ニップレスをつけないことが正しいわけじゃないけど、それを“やるかどうか”がその人の“生き方”だと思う。全てをさらけ出すのは簡単なことじゃない。ときに誰かを傷つけてしまう可能性だってある。でも僕は、そこに責任を持って、彼女たちの“生き方”に向き合うことで、これまで写真を撮ってきたつもりなんですよ。


そういう意味では、週プレで撮らせてもらった染谷有香さんが、自分の中では最後のヌードグラビアかもしれないですね。染谷さんは、彼女がまだヌードに挑戦する前から、年に1回くらいのペースで撮らせてもらっているんだけど、いつまでも変わらない、無防備なくらいオットリしている子でさ(笑)。


 

染谷有香『しどけない、愛。』(2021年)


継続的に撮らせてもらったからには、最後に写真集が作れると嬉しいんですけどね。まぁ、もしカタチにならなくても、僕がファイリングしてまとめている彼女の写真は、全て本人にプレゼントしようと思っていますよ。歳を重ねて、ヌードになって、表情も体つきも変わって……。とにかく最高だからさ。


——中村さんは、染谷さんに限らず、これまで撮影されてきた多くの写真を丁寧にファイリングされていらっしゃいますよね。中には、10代の頃から20代でヌードを披露するまでの写真があって、芸能活動を引退された後の結婚写真までまとめられていて……。“関係性”とはそこまで強く繋がっているのかと驚きました。まるで、その方の半生を垣間見させていただいた気分です。


中村 写真を発表してお金を稼ぐのがプロの仕事ではあるけど、発表することが全てじゃないと、僕は思っています。互いに理解しあえた“関係性”を築けた方たちとの撮影は、写真以上に、僕の中に記憶としてちゃんと残っているんですよ。そういう“関係性”が理想的で良いんじゃないかなって思います。まぁ、結婚式まで呼んでいただけるなんて、相当ありがたい話ですけどね。


——写真への思い、グラビアへの思い。中村さんがカメラマンとして大事にされてきた意識がよく分かるインタビューでした。これからグラビア文化はどんなふうに変化するのか。とても考えさせられます……。それでは最後に、中村さんから週プレへの思いを聞かせてもらえますか?


中村 いろいろお話ししましたが、僕は、週プレが大好きなんですよ。ずっとヌードが撮りたかったのに、『セブンティーン』の編集部に17年間ほどいて、やっと異動になったと思ったら、今度は集英社スタジオの立ち上げに行けと言われて。「会社員ってこんなに大変なのか!」と思ったけど(笑)、最後の11年でようやく週プレ編集部への異動が叶って、本当に嬉しかったんだよね。定年まで自由にやらせてくれた編集部のみなさんには、感謝しかないです。


週プレも、あと3年もすれば創刊60周年だよね。雑誌が売れない時代で大変かもしれないけどさ、僕は、週プレ編集部そのものがグラビアの文化であり歴史であると思っているから。紙にせよ、デジタルにせよ、レスポンスが何であれ、今後もグラビアという文化を、週プレ編集部が残し続けてくれたら良いよね。僕が願うのは、それだけですよ。


「グラビアの読みかた—WPBカメラマンインタビューズ—」は今回で最終回。ありがとうございました!


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中村昇プロフィール

なかむら・のぼる ●写真家。1947年生まれ、東京都出身。

趣味=ゴルフ、音楽・映画観賞

1972年、集英社の社員カメラマンに。2008年に定年退職後も、フリーで活動。

主な作品は、松本ちえこ『愛があるから・・・あなたへ』、郷ひろみ『やさしすぎて』、瀬戸朝香『夢駆』、井川遥『PREMIUM』、石田ゆり子・石田ひかり『ゆり子・ひかり きせき 1987‐1996』、相武紗季『10代 ~AIBU LOVE LIVE FILE~』、橋本マナミ『 あいのしずく 』、奥山かずさ『AIKAGI』ほか、東欧美女のヌードを撮り続けた『ロシア・天使の詩』など。

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