『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』熊谷 貫 編 第三話「情熱を知る」 初グラビアの女の子にかけた言葉

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


新コラム、初回ゲストは、今や伝説となった広末涼子『NO MAKE』を始め、数多くの写真集を担当し、さらに過去10年で一番多くの週プレデジタル写真集も輩出してきたカメラマン、熊谷 貫氏をむかえ、これまでの人生を振り返っていく。


――ヤンジャンの契約カメラマンを経て独立された熊谷さんですが、はじめて週プレで撮り下ろしされたグラビアは覚えていますか?


熊谷 週プレだと、最初は2001年の深海理絵さん(※現在は引退)の撮り下ろしですね。彼女が初主演を務めた映画『完全なる飼育 愛の40日』(実在の女子高生誘拐事件を元にし、『完全なる飼育』シリーズとして話題になった映画の第二作目)と絡めたグラビアだったから、映画の要素を意識しつつ密室感のある場所で撮って、最後は外に出て解放感を得るといった構成になっています。今思うと、密室から外へ向かう組み方も、第一話でお話しした「両極端を撮って、その間を”読ませる”」という意識と重なりますね。


――確かにそうですね。


熊谷 最近のグラビアも含めて、グラビアでのアプローチの仕方は大きく変わっていないみたいです。ちなみにこの深海さんのグラビアを担当されていた編集さんには、その後も長くお世話になることになります。今はもう役員になられている方なんですけど、当時は打ち合わせのときに毎回アイデアを提案するよう言われていて、納得する提案ができるまでなかなか頷いてくれなかったんですよね。だから毎回4~5つくらいロケ地やシチュエーションなどのアイデアを考えて打ち合わせに臨んでいた記憶があります。相当鍛えられましたね。


――アイデアは、そのときの女の子の状況を加味して考える感じですか?


熊谷 ケースバイケースですが、基本的にはそうですね。今どんなことを頑張っていて、これから何を目指そうとしているのか。そんなところから「じゃあこんな衣装で、こんなシチュエーションで、こんな表情を撮るのがよさそうかもね」みたいな感じで。何泊か泊まり込みで撮影に行けることもあれば、近場で半日しか時間が取れないこともあるので、そういった制限のなかで、できる限りいいものを撮りたい気持ちで考えています。逆に編集の方から「こういうふうに撮りたいんですけど」と提案をいただくこともありますし、何でもない雑談のなかから企画が実現することもあります。



――客観的に見ていて思うのですが、熊谷さんって新人の女の子の初グラビアを撮られる機会が多いですよね。


熊谷 あぁ、多いですね。もしかしたら、今グラビア業界で活躍しているカメラマンのなかでも多い方かもしれない。


――女の子にとってグラビア仕事はひとつの挑戦ですし、最初の撮影ってかなり肝心だと思うんです。初グラビアの女の子を撮影される際は、どういった声かけをされているんですか?


熊谷 そうですね。やっぱり水着で雑誌に載ることへの緊張感はあるじゃないですか。ファッション誌に出るのとはまた違った覚悟が必要というか、そもそもグラビア誌がどんな雑誌なのか馴染みがない子も多いと思いますし。撮られ方も分からないうえに、水着になる恥ずかしさもあるだろうから、そこに対する気持ちをどう前向きにできるかには毎回心を砕きますね。

例えば、事前にポージングを勉強してきてくれる子がいたり、ポージングが苦手な子がいたりするわけですけど、一貫して「グラビアはポージングじゃなくて、表情が撮りたいんだよ」ってことをお伝えするようにしています。ポージングに囚われてしまうと、どうしても表情が固くなってしまいますからね。ただ、グラビアにおいて体を綺麗に見せるための立ち方や腰の入れ方はあるし、そういうテクニックは他の現場でもきっと役に立つだろうから、ポージングに関する基本的なことを教えてあげることも多いですかね。


――毎年新しい女の子が続々出てくる業界ですし、世代ごとに感受性も異なると思います。熊谷さんとの歳の差も年々開くなかで、その時々の10代の子の気持ちに寄り添うって、なかなかできることじゃないと思います。


熊谷 自分も10代の頃は若いなりに楽しいことや辛いことがありましたし、僕自身、第一回でお話しした通り、世間知らずなところからカメラマンになった経験があるから、そのときの感覚を思い出しながら、気持ちを理解してあげるよう努めていますね。涼ちゃん(広末涼子)の『NO MAKE』で、ドラマやCMなどのいろんな現場を見させてもらった経験も活かしつつ(第二回参照)「今はこんなことを考えているのかな?」って。それこそ僕がはじめて紗綾ちゃんを撮ったのなんて、彼女が12歳の頃でしたしね。


――12歳!?



熊谷 与論島を舞台にした『ツボミ』(集英社)という写真集の撮影でした。このときはマネージャーさんじゃなく、彼女のおばあちゃんがわざわざ与論島まで来てくれましたからね。今でこそ紗綾ちゃんは会社を立ち上げて社長として頑張っているけど、当時はまだ子どもだったし、泊まりでの撮影も慣れていなかったからか、初日で体調を崩してしまったんですよ。それで、もう初日に撮った分だけで組んで、あとは休ませてあげようって話になって。


――12歳の少女には大変な現場ですよね。おばあちゃんが付き添いに来られた気持ちも分かる気がします。


熊谷 でも、いい話もあるんですよ。そのときの撮影テーマとして「夏休みに東京から与論島へ遊びにきた紗綾ちゃんを、島に住む男の子が案内する」という設定があったんですね。二人で楽しく島をまわりながらも、ときにドキドキする瞬間があったり、男の子の気持ちを気にすることなく、紗綾ちゃんが無邪気にはしゃいだりするみたいな……。「そんな感じで撮りたいから。僕のカメラはその男の子の目線だから」って話を一生懸命説明するんですけど、当時の紗綾ちゃんは無反応で(笑)。人見知りもあっただろうし、仕方がないですよね。

でも「ちゃんと伝わっているかなぁ。大丈夫かなぁ」と不安に思いつつ、紗綾ちゃんに「これからロケハンに行くけど、よかったら一緒に行く?」って聞いたら、静かに「うん」って答えてくれたんですよ。それがすごく印象的で。後々、紗綾ちゃんが大人になってから本人にその話をしたら、「あのとき、撮影テーマを説明してもらえたことが嬉しかった」と言ってくれたんです。


――熊谷さんの言葉が、当時の紗綾さんの心にちゃんと届いていたんですね。


熊谷 11歳でグラビアデビューして以降、撮影中の指示は「そこに立って、次はそこに座って」くらいしかなかったみたいで。撮影テーマのなかで、こんなふうに紗綾ちゃんを撮りたいと説明されたのが初めてだったから、嬉しかったそうです。当時は無反応だったけど、幼いなりに考えていることや感じていることがちゃんとあるんだなぁと改めて実感する出来事でしたね。やはり相手がどんな子であろうと、そのタイミングで撮影する意味を考えて、設定や撮りたい表情を考えてあげることは大切だと思いました。


――なぜ今グラビアを撮るのか。その説明があることで安心する女の子は多いと思います。グラビアと聞くと、いやらしい感じに撮られるんじゃないかと心配になる子もいるでしょうし。


熊谷 そうですね。そういうのは新人さんだけじゃなく、既にグラビア撮影に慣れている子にもお話しするようにしていますよ。何度もグラビアをやっているからこそ、次第に過激さを求められるんじゃないかと不安になったり、撮影そのものにマンネリを感じたりしてしまうこともあると思うんですよ。でも、撮る側としても楽しく撮影に臨んでもらった方が嬉しいですし、積極的に気持ちを向けてもらった方が写真もいいものになりますから。そうやって、女の子がやる気になれるような声かけをしてあげることもカメラマンの仕事のひとつだと思っています。


――お話を聞いていて、初グラビアの女の子の撮影に熊谷さんが選ばれることが多いのは、その優しさにあるように思いました。


熊谷 どうなんでしょう(笑)。まぁでも、そこはやっぱり丁寧にやりたいと思っていますよ。グラビアの定番シチュエーションで、女の子の地元を舞台に撮ることがあるじゃないですか。そういう撮影のとき、大概女の子の親御さんに挨拶する機会があって、タイミングが合えば一緒に飲みに行かせてもらうこともあるんです。そこでお話を伺うと、やっぱり「ちゃんと考えて撮ってあげないといけないなぁ」と、改めて思いますね。


次回、熊谷貫編・最終話は2021年9月24日(金)公開予定! 氏が考えるデジタルならではの魅力とは?


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熊谷 貫プロフィール

くまがい・つらぬく●写真家。1968年生まれ、神奈川県出身。

趣味=歴史のifを考えること。

集英社スタジオを経て、中村昇氏に師事し独立。

主な作品に、広末涼子『NO MAKE』、石原さとみ『たゆたい』、木村多江『秘色の哭』、新垣結衣『まっしろ』、三浦春馬『Letters』、川島海荷『青のコリドー』、小嶋陽菜『こじはる』、橋本愛『あいの降るほし』、浅田舞『舞』、馬場ふみか『色っぽょ』、小宮有紗『Majestic』など。また、俳優やアイドルの写真集以外にも、元ボクシング世界チャンピオン畑山隆則『ハタケ』など、性別やジャンルを問わず、主体に迫るドキュメンタリー性の高い作風で人気を誇る。

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