『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』熊谷 貫 編 最終話「おすすめを知る」 デジタルならではの見せ方を楽しみたい

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


新コラム、初回ゲストは、今や伝説となった広末涼子『NO MAKE』を始め、数多くの写真集を担当し、さらに過去10年で一番多くの週プレデジタル写真集も輩出してきたカメラマン、熊谷 貫氏をむかえ、これまでの人生を振り返っていく。


――熊谷さんにとって、カメラマンになって良かったことってなんですか?


熊谷 いろんな側面でいい方向に変われたことですかね。もともと学生時代は硬派で口数の多い方ではなかったのに、今ではかなりしゃべるようになりましたから(笑)。写真を撮るときは自分の考えを相手に伝えなければなりませんし、撮るとなったら自然と相手に対する好奇心も芽生えます。そういう経験を重ねることで、確実に口数は増えましたよね。それに人に対する興味だけじゃなく、ちょっと回り道をして、何でもない路地を歩くことなんかも楽しめるようになりました。きっと写真をやっていなかったら、こんなふうにはならなかったと思います。


――変化というと、今は写真集業界自体が徐々にデジタル化しつつありますよね。紙の写真集とデジタル写真集の違いについては、どのように捉えていますか?


熊谷 どちらにも良さはありますよね。紙の写真集だと、紙特有の味わい深さや見開きでの迫力がありますし、デジタル写真集はデバイスのバックライトのおかげで写真がすごく綺麗に見られるという魅力があります。ただ最初は、デジタル写真集で際限なく写真を見せられることで、”写真を読ませる”ことが難しくなってしまうんじゃないかと複雑な気持ちもありました。


――”写真を読ませる”ことは、熊谷さんの写真表現の原点であり、軸でもありますね。


熊谷 僕としては、たくさん撮った写真のなかからカットを厳選し、”読ませる”よう組むことが写真の面白さでしたから。グラビアも誌面の数ページのために、海外に行って撮っていましたしね。もちろん、厳選するなかで気に入っているのに使われないカットもあって、そういうのがデジタル写真集になることで見ていただけるのは素直に嬉しいですが、グラビアに込めた想いやテーマが薄まってしまうのは、少し寂しく思ったりもしていましたね。


――確かに、セレクトによってグラビアの印象は大きく変わりますからね。



熊谷 でもそこで大切なのは、デジタル写真集の特性を活かして、”どう写真を読ませるか”を考えていくことだと思っています。例えば芽以ちゃん(黒川芽以)のデジタル写真集『30×30』は、スマートフォンで見てもらうことを前提にして作ったもので。デジタル写真集の強みは、やはりデバイスのバックライトで写真が綺麗に見られるところ。その特性を活かして、あえて夜の東京の街明かりを使って撮ってみました。ほかにも三脚にカメラをセットしてスチールを撮りつつ、途中でムービーに切り替えるという撮影方法にもチャレンジしました。実際にデジタル写真集を見ていただけると分かると思うのですが、普通に写真が並んでいるなか、ところどころ芽以ちゃんが動き出すGIF画像が収録されています。



――写真だと思ったらいきなり黒川さんが動き出すのがとても新鮮でした。まとめると熊谷さんとしては、最初はデジタル化に複雑な思いがあったものの、今はその変化を楽しんでいるということでしょうか?


熊谷 そうですね。今後デバイスもさらに進化していくだろうし、6Gが実現したらもっとすごいことになりそうじゃないですか。いずれはSF映画みたく、空間に画像や映像が出るようになるかもしれない。それでもきっと、紙の写真集は紙の魅力として残っていくだろうから、思い切ってその時代に合わせた見方を考えていくことも、グラビアの面白さだと思いますよ。それに、僕のカメラマンとしてのキャリアのなかで、今ちょうどフィルムカメラの時代とデジカメの時代とが半々くらいになったんですよ。僕自身、フィルムからデジカメに変わっても基本的な撮り方は変わりませんでしたし、時代がどう変化しても人が人を撮るという構図は同じはずだから、できる限りどんどん新しいことを試していきたいですね。


――今後グラビア表現がどうなってくのか、とても楽しみになってきました。次に、週プレ グラジャパ!にある熊谷さんが撮影されたデジタル写真集のなかから、お気に入りの一冊とその楽しみ方を教えてください。



熊谷 そうですねぇ。第2回でご紹介した涼ちゃん(広末涼子)の『NO MAKE』、里帆ちゃん(吉岡里帆)の『光と風と夢。』も見ていただきたいのですが、先ほどお話しした”デジタルならではの見せ方”を意識した作品でいうと、まず馬場ふみかさんの『ぜっぴん』を挙げたいですね。これは、紙の写真集としてリリースされた『色っぽょ』(デジタル版も配信中)の撮影カットから、デジタル写真集としてもう1パターン違うストーリーで組んだ一冊なんです。同様に小倉優香さん(現・小倉ゆうか)の『Que Sera Sera -ケセラセラ-』は紙の写真集『じゃじゃうま』の、有紗ちゃん(小宮有紗)の『ARISA~3部作~』は紙の写真集『Majestic』(デジタル版も配信中)のスピンオフ写真集となります。ただ本編のアザーカットをまとめただけではなく、デジタルのなかで”写真を読ませる”ことを意識して組んでいるので、それぞれの2作品を見比べながら、紙とデジタルの見せ方の違いを楽しんでもらいたいですね。


――確かに紙とデジタルの違いは、ぜひ注目して見てもらいたいポイントですね。


熊谷 また、浅田舞さんの『舞』、井口綾子さんの『バカンス』、高田秋さんの『SHU』も紙とデジタルの両方が出ている写真集になります。紙で持っている方には、ぜひデジタル版との見え方の違いを感じてもらいたいですね。って、一冊にまとめられず、申し訳ないです(笑)。


――いえ、とんでもないです! それだけ一作一作に思い入れがあることが伝わってきて、むしろ嬉しいくらいです。



熊谷 取材前に僕が撮影したデジタル写真集のリストを送っていただきいろいろ振り返ってみましたけど、タイトルを見るだけで撮影時のことを思い出せるくらいに、どの写真集も思い出深いですよ。あ、あともうひとつ。先ほど名前を挙げた有紗ちゃんの『Majestic』は、発売と同時に新宿のBEAMSで1日限定の写真展を開いていただいたんですよ。写真展のタイトルは「MEDERU」。『Majestic』を担当してくれた編集の方が、僕の被写体への向き合い方を表す言葉として付けてくれたタイトルなんです。漢字で書くと「愛でる」。今までそんな言葉をいただいたことがなかったので、嬉しかったですね。


――「MEDERU(愛でる)」ですか。確かに、4回の連載を通してお話をお聞きするなかで、女の子を慈しむ気持ちや愛はすごく伝わってきました。


熊谷 その「MEDERU(愛でる)」という言葉が生まれるきっかけとなった有紗ちゃんの写真が一枚あるんですよ。『超える。』『小宮有紗×週プレ【2013~2018グラビア全記録】』に収録されています。他にも「MEDERU(愛でる)」という言葉の意味を感じてもらえるカットが多数あるはずです。ぜひ、その言葉を意識しながら見てみてほしい写真集ですね。



――流れで読む写真集の面白さもあれば、一枚で説得力を持つ写真の良さもありますよね。 では最後に、熊谷さんの今後の展望を教えてください。


熊谷 まず、現在週プレ グラジャパ!には僕が撮影したデジタル写真集が85タイトル(※2021年8月現在)あるらしいので、今年中には100タイトルを目指したいです(笑)。それからもっと大きなところで、世間一般的にグラビアの地位を向上させたいとも考えています。というのも、グラビアは誰にでもできることではなくて、写真だけで魅力を放てるのは、それだけで凄い才能だと思うんですよ。でも、グラビアアイドルの子たちがグラビア畑の外でぞんざいな扱いを受けることって少なくないじゃないですか。グラビアという仕事自体が軽視されているような、嗤われているような風潮があると思うんです。自分が撮った写真で女の子が辛い思いをしているのは悲しいですよ。だから”写真を読ませる”ことで、グラビアの見方をポジティブなものに変えていきたいですね。本当は「嗤われる」存在ではなく、見た人を「笑顔にさせる」存在なんだってことを伝えたいです。


――私もグラビアに対するネガティブイメージは払拭したいなぁと思っています。グラビアに出ている女の子も、携わっているスタッフさんもみんな、グラビアという仕事に誇りを持って取り組んでいる場面を何度も見てきたので。それこそ熊谷さんの言われていた”写真を読む”視点を持つことで、グラビアの見方の幅は何倍にも広がると思います。


熊谷 例えば歌舞伎なんかも今は伝統芸能として親しまれているけど、最初は批判的な声もあったと思うんです。最近でいうと、YouTuberも最初は「何それ?」って反応が多かったのが、今じゃひとつの職業として認知されていますよね。グラビアの場合、一昔前はまだ色眼鏡で見られていなかった。と思うと、歌舞伎やYouTuberとはまた違うのかもしれないけど、グラビアに携わる人たちが一生懸命コンテンツを作っていくことで、いつかまたひとつの魅力的な仕事であると、あらためて認められる日が来ると信じています。そのときのために、いいグラビアを撮り続けることが僕にできることだと思っているので、今後も”読ませる”意識を持ちながら素敵な作品を世に送り出せるよう頑張っていきたいですね。


※「グラビアの読みかた」は10/1は休載し、次回10/8より再開します。第2回ゲストもお楽しみに!


熊谷 貫 作品デジタル写真集一覧はコチラから!


熊谷 貫プロフィール

くまがい・つらぬく●写真家。1968年生まれ、神奈川県出身。

趣味=歴史のifを考えること。

集英社スタジオを経て、中村昇氏に師事し独立。

主な作品に、広末涼子『NO MAKE』、石原さとみ『たゆたい』、木村多江『秘色の哭』、新垣結衣『まっしろ』、三浦春馬『Letters』、川島海荷『青のコリドー』、小嶋陽菜『こじはる』、橋本愛『あいの降るほし』、浅田舞『舞』、馬場ふみか『色っぽょ』、小宮有紗『Majestic』など。また、俳優やアイドルの写真集以外にも、元ボクシング世界チャンピオン畑山隆則『ハタケ』など、性別やジャンルを問わず、主体に迫るドキュメンタリー性の高い作風で人気を誇る。

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