『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』佐藤裕之 編 第二話「思い出を知る」 緊縛師との出会いで見つけた新しい作風

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4話にわたってお送りする。


今月のゲストは、今年7月に発売された高崎かなみ1st写真集『カナミノナカミ』のカメラマンを務めた佐藤裕之氏。カメラマンになるまでの苦楽を振り返りながら、”女の子の表情や景色をナチュラルに捉え、静かに影を落とす”個性的な作風のルーツに迫る。


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――第一話で聞かせていただいたルーツの感じだと、佐藤さんは、単純に思い出を残したり、美しい風景を切り取ったり、日常のなかでの写真に興味を持たれていたように思うのですが、師匠・宮澤正明さんのもとでアシスタントをされたあとは、どういった流れでグラビアカメラマンになられたんでしょうか?


佐藤 おっしゃる通り、僕が写真に興味を持ったのは、グラビアというよりも、もっと身近な風景にありました。趣味でカメラを楽しんでいる方に近い感覚だったと思います。グラビアとの縁は、前話でもお話ししましたが、僕がアシスタントについていた頃の宮澤さんの仕事がグラビアに偏っていたことが大きいです。独立後は、アシスタント時代にお世話になった方から仕事をいただくことが多かったので、自然と女の子のグラビアを撮ることが多かったですね。雑誌もそうだし、当時はイメージDVDのパッケージも撮っていました。ときには、動画を回すこともありましたね。


――佐藤さんのビジョンとしては、それでよかったんですか?


佐藤 実は、独立した後も明確なビジョンは持てていなかったんですよね。“いい写真”がどんな写真なのか、ちゃんと理解できていなかったし、カメラマンとしてどんな写真を撮ってきたいかも、よく分かっていませんでした。それでも仕事はいただけたので、気持ちだけは折れないよう、ひたすら鍛錬を続ける気持ちで、粛々と撮り続けていましたね。パッケージ撮影も、一冊、写真集が作れるくらいの勢いでやっていましたから。絶対に使われないと分かっていながら、引きの写真も必ず撮っていましたし(笑)。


――当時のビジョンが曖昧だったとはいえ、現在佐藤さんは、グラビアカメラマンの第一線で活躍されています。グラビアを撮る楽しさ、また人を撮る面白さを実感するきっかけが何かあったんでしょうか?


佐藤 まぁ、かわいい女の子を撮るのはずっと楽しかったですよ。嫌いな人なんて、そうそういないでしょう(笑)。でも、ターニングポイントとなったのは、とあるグラビア現場で緊縛師の女性と出会ったことですかね。


――緊縛師……?


佐藤 そのときのグラビアの内容が、女の子を縄で縛るというもので。それで緊縛師の方をお呼びしていたんです。緊縛師のかたわらバーでSM嬢をやっている女性で。お会いした瞬間、漠然と「この人を撮ってみたい」という衝動に駆られました。心の底から人を撮りたいと感じたのは、このときが初めてだったと思います。


――よほど魅力的な女性だったんでしょうか。


佐藤 緊縛師でSM嬢をやっているから魅力的に映ったのではなくて、その生業も含めて、直感的に、普通の人にはない厚みや奥ゆかしさを感じたんだと思います。それで「写真、撮らせてもらえますか?」とお願いしたら、まんざらでもない感じで承諾してくれて(笑)。特別ポートレートモデルをしていたわけでもないのに、です。そこから2〜3年ほど、旅をしながら彼女を撮り続けました。


――そう言えば、佐藤さんが撮影された元AKB48・永尾まりやさんの写真集『JOSHUA』(幻冬舎)も縛りがテーマになっていましたね。


佐藤 そうですね。あれは完全に永尾さんの要望なので、この話とは関係ないんですけど(笑)。それに、緊縛師の方を撮影させてもらったとき、縛りの要素は一切ありませんでした。なぜなら、僕は、彼女という人間を撮りたかったから。特殊な職業には違いないものの、緊縛師であることは、彼女のアイデンティティの一部に過ぎなかったですね。仕事の撮影でもなかったので、撮りたい欲求に素直に従いながら、無我夢中でシャッターを押していました。


――なるほど。その撮りたい気持ちのままに撮った写真は、やはり出来も違いましたか?


佐藤 そうですね。手応えもあったし、ただの思い出として自分の中だけにしまっておくのはもったいなかったから、キャノン主催の写真コンテスト「写真新世紀」に撮りためた写真をまとめて応募しました。そしたら、なんと入選したんですよ。しかも、名だたる審査員の方たちのなかで、僕がいちばん見てもらいたいと思っていた荒木経惟さんによる選出で。


――数々のヌード作品を世に送り出してきた荒木さんからの選出とは。凄いですね!


佐藤 自分の感覚通りに撮った写真が評価されたことは、大きな自信になりました。荒木さんからコメントもいただきましたが、写真を通して、彼女に対する僕の純粋な気持ちがちゃんと伝わっていたことにも驚きましたね。改めて、写真の力を実感した瞬間でした。“いい写真”が何のか、どんな写真を撮っていきたいのか。ずっと定まらなかった答えを、ここでハッキリと掴むことができたんです。ただ、グラビアの現場ではなかなか理解してもらえなかったんですが……。


――え、何故ですか?


佐藤 僕の作風を、当時のグラビアのテイストにあわせるのが難しかったからですね。荒木さんから賞をいただいた写真を持って、いろんな出版社に営業に行きましたが、「写真はいいんだけどね」と仕事には繋がらなくて。“撮りたいまま撮ったいい写真”と“いいグラビア”は、また違うんですよ。


――「写真新世紀」で入選されたのが2007年なので、その直後くらいの話ですよね。確かに、今以上に決め打ちのグラビアが多かったように思いますし、そもそもグラビアは女の子が魅力的に写っていることが大事ですから、むしろカメラマンの気持ちが伝わり過ぎない方が“いいグラビア”と言える気もします。


佐藤 そうなんですよね。だから、自分が撮りたい形でグラビアを撮れるようになるまで、我ながら、かなり苦労している方だと思います(笑)。


――そうだったんですね。


佐藤 でもそんなあるとき、ワニブックスに営業に行ったら、いきなり『UP to boy』(現在の表記は『アップトゥボーイ』、以下『UTB』)の表紙に起用していただけて。当時℃-uteのメンバーだった矢島舞美さんと鈴木愛理さんのペア表紙でした。ここからじゃないですかね。グラビアカメラマンとしての仕事が軌道に乗りはじめたのは。


――本当に、いきなりの大抜擢ですね。


佐藤 多分ですけど、これまでのグラビアっぽくない作風が逆に良かったんだと思います。僕は撮影時、基本的に決め打ちはしません。被写体に自由に動いてもらって、その動きの中で個性を感じながらシャッターを切ります。そうすることで、その子にしかない人間味が写る気がしているからです。またレタッチも全くと言っていいほどしません。後で調整するにしても、パッと塩を振るだけの味付けで仕上げる感じ。つまり、撮った瞬間に全てが完結しているんですよ。このナチュラルな撮り方が当時のグラビアのテイストに合っていなかったわけですけど、だからこそ、目に留まりやすかったんだろうし、撮らせてみようと思ってもらえたんでしょうね。


――今の佐藤さんのグラビアに繋がるナチュラルな作風を、はじめてポジティブに捉えてくれたのが『UTB』だったと。


佐藤 はい。その後、ワニブックスの別の編集の方から「写真新世紀」で入選した作品の世界観で写真集を作りたいと要望があって、沢井美優さんの写真集『ひととき』を撮ることになりました。その世界観を具現化する方法論として、使用カメラは35mmのネガフィルムで、撮影中は基本、僕と沢井さんの二人きりにしてほしいと、僕の方からいろいろと要望を出させていただいて。そんな感じでこだわりながら、初めてタレント写真集を作らせてもらったのですが、たまたまカメラマンの橋本雅司さんが手に取って「いい写真集だ」と言ってくださっていたようで。それもまた、自信に繋がりましたね。


――荒木さんに続き、橋本さんにまで……。実績のあるカメラマンさんからの評価は、嬉しいですよね。



佐藤 そうですね。ちなみにこの後、週プレからもオファーが来るのですが、『UTB』の表紙がきっかけだったようです。矢島さん、鈴木さんと同じハロー!プロジェクト所属の真野恵里菜さんの撮り下ろしでした。グラビアを撮るようになってから、いちばん目標にしていた雑誌が週プレでしたし、何度も営業に行っていましたから「やっと来たか!」って感じでしたよ(笑)。


――それにしても、佐藤さん自身のこだわりを崩すことなく、業界に認められていったのは凄いことだと思います。先人と同じことをしていても仕方がないにしても、普通だったら、その業界でいいとされるものに寄せることからはじめてしまいそうですから。


佐藤 それに関しては、とにかく営業をしまくっていたときに、当時『スコラ』(スコラマガジン、現在は休刊)の編集長だった方と出会ったことが、ひとつの救いだったように思います。グラビア誌への営業なので、当然、過去に撮影したグラビアを営業資料として持っていくじゃないですか。そしたら「過去に仕事で撮った写真はいいから、自分が好きで撮った写真はないの?」って言われたんです。で、当時撮りためていた風景写真をお見せしたら「いい写真じゃん。これ10万で買うよ」って、本当に10万円で買ってくださって。「グラビアを撮ってもらいたいんだから、風景写真を見せられても分からないよ」と言う編集の方もいるなかで、仕事のうえにある“僕の写真”を見てくれたのがとても嬉しかった。そうやって人との出会いに恵まれながら、ちょっとずつ安定的に仕事を請けられるようになりましたが、アシスタントを卒業してからここまで来るのに、5年はかかりましたかね(笑)。


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佐藤裕之プロフィール

さとう・ひろゆき●写真家。1972年生まれ、東京都出身。

趣味=トレーニング・ランニング

写真家・宮澤正明氏に師事し独立。2007年、写真新世紀 荒木経惟賞 受賞

主な作品に、今年7月に発売された高崎かなみ1st写真集『カナミノナカミ』のほか、沢井美優『ひととき』、半井小絵『雲の向こうへ』、中村愛美『LYIN` EYES』、松岡菜摘『追伸』、イ・ボミ『イ・ボミSTYLE』、高山一実『恋かもしれない』、中山莉子『中山莉子の写真集。』、逢田梨香子『R.A.』、高橋朱里『曖昧な自分』、夏川椎菜『ぬけがら』、奥山かずさ『かずさ』、永尾まりや『JOSHUA』などがある。また、乃木坂46の5thシングル『君の名は希望』のCDジャケット撮影も担当。しっとりとした、リアリティのある作風が特徴。

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