『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』佐藤裕之 編 第三話「情熱を知る」 “人間クサい”部分を撮る

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4話にわたってお送りする。


今月のゲストは、今年7月に発売された高崎かなみ1st写真集『カナミノナカミ』のカメラマンを務めた佐藤裕之氏。カメラマンになるまでの苦楽を振り返りながら、”女の子の表情や景色をナチュラルに捉え、静かに影を落とす”個性的な作風のルーツに迫る。


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――決め打ちをせず、レタッチも最小限。お話を聞く限り、佐藤さんのグラビアの撮り方は、とても感覚的ですよね。そこに“撮りたくなるセンサー”みたいなものがあるとしたら、女の子のどういう部分に反応しているんでしょうか? 


佐藤 “人間クサさ”ですかね。人間誰しも、多かれ少なかれ、他人には見せられない心の内があると思うけど、僕が撮りたいのはそこにあるというか。昔、とある雑誌のグラビアで人気アイドルの女の子を撮影したことがあって。テレビに出ずっぱりのトップアイドルだったし、もちろん僕も、歌番組で笑顔を見せる彼女の姿は知っていました。しかし、実際にお会いしてみると表情がやや曇っていたんです。まぁ、ものすごく多忙なスケジュールのなかでの撮影だったので、お疲れ気味なのも仕方がないですよね。


――アイドルも人間ですもんね。


佐藤 そうなんですよね。アイドルは常にキラキラとした笑顔を見せてくれる存在だってパブリックイメージがあるけど、笑顔のない日もあって当然。驚きはしたものの、逆に、“人間クサい”部分を見せてもらえたことで、より彼女の魅力を感じられた気がしたから、僕としては嬉しい出来事でしたね。


――なるほど。とはいえ、曇った表情をそのまま撮るわけにもいかないのでは?


佐藤 そうですね。そこが心苦しいところではありますが、その子のファンの方たちに喜んでもらえるグラビアを撮るのが僕の仕事。どんな状況でも形にしなきゃいけないし、撮影に気持ちが向いていないとしても、「まぁ、人間だしなぁ」くらいの心づもりでいないと、うまく対応もできないですよね。何なら、人間以上に天気の方がどうしようもない(笑)。晴れると思って準備を進めても、現場に行った途端、一気に覆されることなんてザラですから。


――その“人間クサさ”に触れようと思うと、現場の環境作りも重要そうです。そこに、佐藤さんなりのこだわりはありますか?


佐藤 グラビアだと、スタッフさんが和気あいあいとお喋りしている明るい現場が多いんでしょうけど、関係ない言葉が耳に飛び込んでくるだけで、自分の感情の動きが分かりづらくなってしまうし、女の子の表情も言葉に引っ張られてしまうから、なるべく静かな環境で撮りたいですね。一度、大先輩のスタイリストさんに「ちょっとうるさいんで、黙っていてもらってもいいですか」と言ってしまったこともありました(笑)。あの時は焦ったなぁ……。それを機に「佐藤裕之の現場では静かにしていなきゃいけない」みたいな暗黙の了解がじわじわと業界内に浸透していったので、結果的にはよかったのかもしれませんが(笑)。


――それはスタイリストさんもビックリしたでしょうね(笑)。


佐藤 ただ、無音がいいわけではないんです。何の音もない空間は逆に不自然じゃないですか。写真には、現場で流れている音や、音から作り出される空気感までもが写り込むと感じているので、ホテルのフロントで流れているラウンジミュージックやクラシックなど、スッと耳に入ってくるような音楽はかけるようにしています。


――あまりに無音だと、逆に落ち着かないですしね。



佐藤 でもこの前、8月の+スペシャルで佐藤美希ちゃんの『Time and Place』を撮りに五島列島へ行ったときは、何も音楽をかけませんでした。波の音や風の音、小鳥のさえずり。一切ノイズのない自然の音がとにかく心地良かったんです。室内で撮っているときも、ずっと自然の音が聞こえていました。コロナ禍で、久々に遠出して撮影ができたタイミングだったこともあり、とても癒されましたね。


――ちなみに、週プレ グラジャパ!には、佐藤さんが撮影された高崎かなみさんのデジタル写真集が(1st写真集『カナミノナカミ』含め)全部で6冊あります。1冊目は『野に咲く美少女』。ちょうど高崎さんが「週刊プレイボーイ×LINE LIVE ソログラビア争奪オーディション」で優勝し、グラビア賞3冠(ほか、2018年「サンスポGoGoクイーン」グランプリ、2019年「ミスジェニック2019」グランプリ)を達成された時期でしたよね。



佐藤 はい。ただ、最初に撮らせてもらった段階では、高崎さんの本質的な魅力に気づけていなかった実感があります。まず、打ち合わせのときに、他のカメラマンさんが撮影した高崎さんのグラビアをいくつか見させていただいたのですが、第一に「難しそうだな」って感じたんですよね。それは、高崎さんが、ではなく、僕の写真のなかで、見る人にどう彼女の魅力を届けられるかが分からなかったという意味で。


――それは、 “人間クサさ”を写すイメージが湧かなかったということですか?



佐藤 そうですね。最初は「今どきのギャルなのかな」と思っていましたが、実はお父さん思いの純朴な一面もあって。最新の1st写真集『カナミノナカミ』の撮影で沖縄に行ったときなんて、眩しい日差しに目を真っ赤にして、涙を流しながら「大丈夫です! 頑張ります!!」と笑顔を見せてくれました。目を開けるのが辛かったら、諦めて次にいこうかってことは、グラビアの撮影だとよくあることなんですけどね。そういうピュアな人柄は、撮影を重ねるごとに知っていけたような気がしています。


――そうだったんですね。表紙、写真集と、グラビアのなかでのステップを踏んでいく姿を写すなかで意識していたことはありますか?


佐藤 グラビアは、芸能界という階段の一段目。そこから人気が出て、歌手なり女優なり、さまざまな夢に向かっていくわけですよね。だからこそ、おこがましくも、どうすればこの階段を登らせてあげられるのかを考え、夢を叶えるための力になってあげたいと思いながら撮影するようにしていました。それは、高崎さんに限った話でもないですし、表紙でも、写真集でも、誌面の数ページのグラビアでも気持ちは同じです。どちらかというと、表紙や写真集と聞いて気合が入るのは女の子の方。その彼女たちの気合いに、僕の気持ちが引っ張られることはよくありますけどね。


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佐藤裕之プロフィール

さとう・ひろゆき●写真家。1972年生まれ、東京都出身。

趣味=トレーニング・ランニング

写真家・宮澤正明氏に師事し独立。2007年、写真新世紀 荒木経惟賞 受賞

主な作品に、今年7月に発売された高崎かなみ1st写真集『カナミノナカミ』のほか、沢井美優『ひととき』、半井小絵『雲の向こうへ』、中村愛美『LYIN` EYES』、松岡菜摘『追伸』、イ・ボミ『イ・ボミSTYLE』、高山一実『恋かもしれない』、中山莉子『中山莉子の写真集。』、逢田梨香子『R.A.』、高橋朱里『曖昧な自分』、夏川椎菜『ぬけがら』、奥山かずさ『かずさ』、永尾まりや『JOSHUA』などがある。また、乃木坂46の5thシングル『君の名は希望』のCDジャケット撮影も担当。しっとりとした、リアリティのある作風が特徴。

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