『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』桑島智輝 編 第三話「情熱を知る」 写真集は祭り

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第3回目のゲストは、安達祐実『私生活』、今田美桜『生命力』、大原優乃『吐息』、川津明日香『明日から。』などのグラビア写真集のほか、俳優やコスプレイヤーの写真集も手掛けている桑島智輝氏。商業カメラマンとして、その幅広い活動にかける想いを聞いた。


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――桑島さんが撮られた写真集のなかで印象的なのは、やはり安達祐実さんの『私生活』です。安達さんの仕事現場での様子や生活風景をフィルムカメラで切り取られたドキュメンタリー要素の強い一冊。前話でお話しされていたAKB48の特殊なグラビアとは作風が全く違いますよね。



桑島 『私生活』は、安達さんの芸能生活30周年記念に何かできないかってことではじまった企画だったんです。それで、安達さんを担当していたヘアメイクさんから直々に「撮ってもらえませんか」と連絡が来て。安達さんとお会いしたのも、そのときがはじめてでした。最初は写真集として出版する予定もなかったし、全部が手探りの状態でスタートしたんです。それこそ、ファッションシューティングのようなセットアップの撮影も試しましたよ。ただ、どれもピンとくる絵にはならなくて。そこでようやく「逆にスナップっぽく撮ってみるのはどうだろう?」って話になったんですよね。


――安達さんの私生活を追う目的ではじまったわけではなかったんですね。



桑島 フィルムカメラでスナップを撮っていくうちに「かつてカルチャー誌を読んで憧れた写真ってこんな感じだったよなぁ」なんて思い出して。約2年間、夢中になって撮り続けていました。で、撮りためた写真を週プレ編集部に持って行ったら「写真集にするためには、スナップだけじゃなく、グラビア的な写真もいれてほしい」と言われ、改めて八丈島までロケに行くことになったんです。


――日常的なスナップと相対するかのような八丈島での感情的なシーンが『私生活』の見どころですよね。日々仕事をこなし、生活を送る人間の内側で大きく揺れる感情を見た気がして、衝撃を受けました。



桑島 まさしく、八丈島では安達さんの感情を撮ることをテーマにしていました。感情は目に見えないものですけど、女優さんなら、そこをうまく表現してくれるんじゃないかという期待も込めて。僕も物体のない感情を撮るために、事前に気持ちを作って行きましたよ。撮影の1週間前からラース・フォン・トリアー(『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)や『ドックヴィル』(2003年)などで知られるデンマークの映画監督。過激な暴力・性描写でたびたび賛否両論を呼ぶ鬼才)の映画を見て、自分のなかにダークネスな感情を育てたり、集合してから現地に着くまで一切喋らなかったり……。そして、撮影がはじまると同時に、育て上げてきた感情を暴発させるというね。感情を思い切り表現してもらうために、いかにして安達さんを追い込むか。心を鬼にして撮影に臨みました。もはや狂気的ですよね。


――そのような感情をカメラマンさんから向けられることもなかなかないでしょうし、安達さんもビックリされたんじゃないでしょうか。


桑島 安達さんも肝が座っていたとはいえ、普通に考えたら怖いですよね。僕も撮影が終わったあとは罪悪感があったし、精神的にもキツかった。もう二度と、同じような撮影はできないです。今だったら、相手を追い込むにしても、もっと違うやり方を考えると思いますね。でも、この撮影を経験して、自分のなかにあったリミッターを外せたのは大きかったです。恐れるものが何もなくなったというか、相手にまっすぐ向き合って撮るとはこういうことなのかと、改めて写真の面白さに気付かされたんですよね。それ以降も変わらずヤンジャンでAKB48のグラビアを撮っていましたが、「スナップっぽい写真で」「内面を写して」みたいなオーダーも一気に増えました。


――桑島さんは週プレで、それこそスナップっぽく柔らかな雰囲気のグラビアを撮られることもあれば、ヤンジャンでは、ガッツリとセットを組んだコスプレイヤーさんのグラビアを撮ることもありますよね。どのカメラマンさんも、雑誌ごとに撮り方を変えているとは思うのですが、桑島さんは特に振り幅が大きい印象です。


桑島 どっちの撮影スタイルも好きだし、どっちもやっていきたいんですよね。できるだけたくさんの表現方法を持っておけば、カメラマンとしての強みにもなるし、表現の幅もさらに広がっていくはずだから。ひとつの表現方法をブラッシュアップするとしたら、日々撮り続けている安達さんの写真だけで十分。のびのびと自己表現を追求できる場所があるからこそ、仕事では柔軟に対応できるようにしておきたいんです。


――そんな桑島さんがグラビアを撮るにあたって意識していることは何なんでしょう? 


桑島 女の子のパーソナリティやタレントとしての強み、今、立たされている岐路を知ったうえで、撮る場所や撮り方を考えるようにしていますね。グラビアの主役はあくまで女の子。カメラマンの表現の場ではないですから。女の子本人やマネージャーさん、そして編集の方に納得してもらえる写真を撮ることが何より重要です。そこに少し自分らしい色が滲み出るくらいがちょうどいいと思っています。


――「カメラマンの表現の場ではない」。確かにそうですよね。ひとつのグラビアをきっかけに知名度が上がったり、次の仕事に繋がったりすると考えると、女の子を第一に思わざるを得ません。


桑島 やっぱり嬉しいですよ。昔撮らせてもらった人が、当時より大きなフィールドで活躍している姿を見られるっていうのは。それに、写真を撮るってことは、その子の過去を記録することでもあるじゃないですか。特に写真集は、雑誌と違って“もの”が残りやすい。何年か経ったあとに、何らかの巡り合わせで誰かの心に引っかかるかもしれないと思うと、撮影そのものが、ものすごく意味のある行為だと実感しますよ。


――そういう意味では、写真集の撮影と普段のグラビアの撮影では、感覚も違いますか? 


桑島 違いますね。写真集は祭りです。


――祭り、というと?


桑島 僕が思うに、グラビアの現場って、商業写真界、最後のフロンティアなんですよ。事情があるのは仕方ないですけど、今の時代、グラビアほどフリースタイルで撮らせてもらえる現場もないですから。そのなかでも写真集は特に自由。手だけの写真とか、風景写真とか、雑誌グラビアの8ページには決して使われないような写真もジャンジャン撮っていいわけです。しかも、何日間もかけて撮影ができるので、撮りはじめた頃と最終日とで表情に変化が出るのも面白い。この自由さは、僕にとってお祭りみたいなものなんです。


――なるほど。グラビアの自由さにこそ、写真表現の可能性が残されているというわけですね。写真集でいうと、最近は、川津明日香さんの1st写真集『明日から。』を撮影されていました。この撮影も“祭り”でしたか?


 


桑島 そうですね。普段は泊まり込みで撮影をすることが多いですけど、今回はご時世的に難しそうだったから、あえて日を分けて、1年かけて撮影したんです。冬は雪を撮りに北海道へ、春は桜を撮りに群馬県へ、夏は海を撮りに種子島へ。飛び飛びでの撮影だったから、会うたびに明日香ちゃん自身の状況も変化していたし、それによって表情が違って見えたり、髪が伸びて雰囲気が変わったりするのが新鮮でしたね。写真集のなかでも、そういった変化の様子が面白く写っていると思います。それに、笑顔の絶えない性格で、表現力もある子だったので、じっくりコミュニケーションをとる時間が少なかったにもかかわらず、楽しく撮らせてもらえましたよ。


――よく笑う性格だからこそ、先ほど話にあがっていた“内面”や“パーソナリティ”にどう迫ったのかが気になります。個人的なイメージですが、内面を写すというのは、笑顔とは真逆のネガティブな一面を写すことでもある気がするので。


 


桑島 確かに、女の子に「感情を出してほしい」と伝えると、涙やネガティブさを垣間見せてくれることが多いです。ただ、今回は1st写真集だし、感情を写すよりも、明るくてフレッシュな姿を撮ってあげる方が絶対にいいと思っていました。実際、明日香ちゃんを撮るなかで感じた魅力は、笑顔の豊富さ。うれしくって笑っているのと面白くて笑っているのとでは笑顔のジャンルが違うように、明日香ちゃんのなかには、もっと細分化された笑顔があるように感じたんです。笑顔こそが明日香ちゃんの武器。それは間違いないと思ったし、今回に関しては、とにかく笑っている表情を撮ることに重きを置いていましたよ。


――パーソナリティや岐路を意識するとは、そういうことなんですね。


桑島 逆に(大原)優乃ちゃんの2nd写真集『吐息』は、女優に転向していくタイミングだったし、1stとの違いを出す意味でも、少し重ためな感じで撮ろうって話でした。まさに、涙を流しているカットが一枚だけ収録されていますね。アイドルからグラビアへ、そして女優へとステップを踏むなかでの撮影でしたし、普段笑顔でいることを求められる分、感情を表に出そうとすると、やはり涙が浮かんでくるんでしょうね。


 


――最後にもうひとつ、えなこさんの1stメジャー写真集『えなこcosplayer』は、「ドラゴンボール」や「ONE PIECE」などの人気漫画作品のコスプレを披露した豪華な一冊となっています。パーソナリティを意識した写真集とはまた別ジャンルだと思いますが、このように世界観が作り込まれたグラビアを撮影するときは、何を意識されているんですか? 


 


桑島 これはもう、プロたちとの共同作業による結晶ですよね。衣装さんや美術さんの技術あっての作り込みだし、えなこちゃんの“どんなキャラクターにも染まれるビジュアルの強さ”によってはじめて成立する作品なので。だから、意識していることでいうと、光の当て方にこだわりながら、うまくフォルムを見せることですかね。それも、常にみんなで写りを確認して、力を寄せ合いながら作り上げていく感じです。こういう風にセットを組んでの撮影も、やっぱり楽しいですよ。


桑島智輝編・最終話は11/25(金)公開予定! “もの”へのこだわりと写真が持つ混沌さの魅力を語る。


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桑島智輝プロフィール

くわじま・ともき●商業カメラマン。1978年生まれ、岡山県出身。

趣味=DJ、ラジオDJ

写真家・鎌田拳太郎氏に師事し、2004年に独立。2010年、株式会社QWAGATAを設立。

主な作品は、今年10月に発売された川津明日香1st写真集『明日から。』のほか、篠田麻里子『SUPER MARIKO』、安達祐実『私生活』、指原莉乃『猫に負けた』、今田美桜『生命力』など。溝端淳平『熱風少年』や新田真剣佑『UP THE ROAD』などの男性タレント写真集や広告写真も多く手がけている。また、2014年に女優・安達祐実と結婚し、その生活の様子を収めた写真集『我我』(2019)と夫婦旅の記録を収めた『我旅我行』(2020)を発表したことも話題となった。

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