『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』桑島智輝 編 最終話「おすすめを知る」 混沌を生み出すことの重要性

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第3回目のゲストは、安達祐実『私生活』、今田美桜『生命力』、大原優乃『吐息』、川津明日香『明日から。』などのグラビア写真集のほか、俳優やコスプレイヤーの写真集も手掛けている桑島智輝氏。商業カメラマンとして、その幅広い活動にかける想いを聞いた。


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――幅広いジャンルでの撮影を経ていくなかで、写真に対する意識や被写体への向き合い方など、変化したことはありますか? 


桑島 変化していると思いますよ。過去の写真と見比べても、最近の写真はトーンが落ち着いていますし、もっと具体的に言うと、一回の撮影で数種類のカメラを使い分けることが増えました。ワンシチュエーションのなかで、いかにしてバリエーションを生み出せるかを楽しんでいる部分があるというか。


――なぜ、そのような撮り方を?


桑島 なるべく等身大を撮りたいという思いが強くなったからですかね。ひとつのカメラで集中して撮り続ければ、写真一枚の完成度はどんどん上がっていきます。何なら、昔は「このレンズしか使わない」と決めて、グラビアを撮り続けたこともありました。でも、やっていくうちにただの我慢大会みたいになってきちゃって、それは違うぞと。最近だと、場合によってはコンパクトなミラーレスカメラを使うこともあるのですが、ラフに撮ることで、何がどう写り込むのかを見てみたい気持ちもありますね。そうやって、いろんな写真が混在している方が表現としては豊かだし、それが写真の面白さだと思うから。


――それでいうと、最近の作品ではないですが、2015年にリリースされた三原勇希さんのデジタル写真集『ホンマに好きやねん』に気になる構成があって。恐らく、同じ瞬間を捉えたであろうこちらの2枚。使っているカメラが違うからか、写真のトーンが全然違うんですよね。そこに物語を感じたんです。浜辺で横になりながら目の前に三原さんがいる妄想をしていたら、パッと視界が現実世界に戻って、本当にそこに三原さんがいた……みたいな。


 


桑島 この2枚は使っているカメラもレンズの焦点距離も違いますね。妄想から現実に……、なるほど(笑)。そういう新しい解釈が見つかるのも面白いですよね。まぁ、僕は楽しんで撮っていますけど、異なるトーンの写真をうまくまとめるのは、手練れのデザイナーさんや編集さんじゃないと難しいと思います。もし新人の編集さんに組んでもらうことになったら、雰囲気の違う写真がいくつもあって困惑させてしまうんじゃないかな。そう思うと、うまく辻褄が合うように構成してくださっている担当の方々には感謝しかないですね。


――特にこの2枚を見たとき、トーンの変化が人の気持ちの移ろいを表しているような気がしたんですよね。同じシチュエーションにしても、想いはひとつじゃないというか。ときに相反する複雑な感情を抱えてしまうこともあるなぁと。


桑島 人間はみんな複雑だし、難しい。「自分はこうだ」って思いたくもなるけど、本当は自分のなかで矛盾していたり、混沌としていたりして当然なんですよね。だからこそ、写真もそうあるべきなんじゃないかと思うんですよ。ただ、前話でもお話ししたとおり、タレントさんのグラビアは、その子の状況や強みを加味したうえで、方向性を定めて撮るようにしています。そこがブレていたら、何が何だか分からなくなりますからね。とはいえ、そのなかであえて混沌を生み出すことは、むしろ重要なことで。混沌さが伝えてくれる“その子らしさ”っていうのも、実際あるんですよね。


――と言いますと?


 


桑島 例えば、大原優乃ちゃんの『大原優乃、台湾ではじける。』は、僕がはじめて優乃ちゃんを撮らせてもらったときのグラビアで。台湾のシュールな街並みや温泉地をバックにすることで、当時、僕がはじめて優乃ちゃんにお会いしたときに感じた無垢さや少女性がより際立つ形で写っていると思います。それと、台湾を観光する様子とグラビアらしい水着のカットがバランスよく収録されているのも、この写真集のいいところですね。


――心なしか、大原さんの表情がいつも以上にはしゃいでいるように見えたのが印象的な写真集でした。確かに、台湾に初上陸した高揚感や目の前に新鮮な風景が広がっていることを思うと、リアルな反応ですよね。


桑島 僕は必ず打ち合わせで、撮らせていただく子の年齢を聞くようにしているんですよ。同じ台湾に行くにしても、このときの優乃ちゃんみたいにまだ10代後半の子だったら、異世界間にはしゃぐのも納得ですけど、もし20代後半の子だったら、きっと違った反応になるじゃないですか。それに応じてアプローチの仕方を変えつつ、そのなかで一方向の表現に傾きすぎないよう、あえて混沌を生んでいく……。そこに、よりリアルな“その子らしさ”が写るのが、グラビアの面白いところだと思うんですよね。今は、SNS上でたくさん女の子の写真が見られる時代ですけど、実際のその子に限りなく近い雰囲気を感じてもらうには、やっぱりグラビアを見ていただくのがいちばんですよ。どんなアプローチで撮られていても、結局、人を撮っていることに変わりはないですしね。もちろん、グラビアだろうと、SNSだろうと、写真を見ただけでその子の全てなんて分かりっこないんですけど。


――写真自体が記録的なものではあるものの、桑島さんが撮られる作品には、特にその側面が強いイメージがあります。まさに、その子が何歳のとき、どんな岐路に立っていたのか、どこへ行って、どんな表情を見せていたのかは、写真集を見返す際の重要な手がかりにもなりますよね。


桑島 そうですね。時間が経てば、そこからどう変化したかを楽しむこともできるし、それが記録として残っていくのは面白いと思います。ちょっと話が変わりますけど、僕、一家の長男として生まれて、しかも初孫だったんですよね。だから、おもちゃもたくさん買ってもらえたし、実家に帰ると、子どもの頃の写真をまとめたアルバムが大量に残っているんです。弟のアルバムなんて、薄いのが一冊くらいしかないのに(笑)。それを、家族だんらんの時間にみんなでよく見ていたんですよ。今思うと、写真に記録が残っていく面白さの原体験は、そこだったのかもしれないなぁ。学生時代に集めた雑誌のスクラップも、いまだに持っていますしね。


――やはり、形として残る“もの”がお好きなんでしょうか。


桑島 基本的には、物質的な“もの”が好きですね。僕のおじいちゃんがお面好きで、集めたお面を応接間の壁一面にダーっと飾っていたんですよ。子どもの頃はマジで怖かったんですけど(笑)、そんな空間があったことはずっと記憶に残っていて。だからなのか、僕も“もの”に囲まれて暮らしていたいタイプなんですよね。前に海外からレコードを買ったときも、郵送に使われた段ボールとか、そこに貼られているシールが日本では見ないデザインのものだったから、捨てずにそのまま保管しています。ミニマリストとは無縁の考え方ですよね(笑)。


――桑島さんが写真を撮り続ける根底には、“残っていくもの”への想いがあるということですね。それは、とても純粋な写真への向き合い方だと感じます。では最後に、桑島さんの今度の展望を教えてください。


桑島 最近は、仕事の割合が“スナップっぽい写真”に偏ってしまっているので、もう一度、過去にやってきたグラビアをもとに営業行脚していこうと考えています。もちろんグラビアの現場は大好きだけど、広告もカルチャー誌も楽しいし、全部やっていきたいから。それに「うちは現金のみで、クレジットは対応してないんですよ」ってお店だと、それが理由で来てくれなくなるお客さんが出てくるじゃないですか。商業カメラマンも同じで、求められることに適宜対応していかないと、いつか閉店しちゃう。やっぱり僕は人を撮ることが好きなので、これからも撮り続けられるよう、柔軟にやっていきたいですね。


――桑島さんでも、そのような不安は感じられるんですね。


桑島 フリーの宿命ですよね。リリー・フランキーさんとみうらじゅんさんの対話をまとめた『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』(新潮文庫)って本のなかに「自由業って不安業っていうことだからね」って言葉があるんですけど、まさに“不安業”なんですよ。もう、もがき続けるしかないと思っています(笑)。ただ、もがいていることを自覚するだけで、だいぶ気持ちは楽になりますよ。それから、この前、お世話になっている編集の方に相談したとき「普遍的な何かをひとつでも打っておけば、それはちゃんと未来に残っていくから」って話をしてくれて。“普遍的な何か”ってものすごく曖昧ですけど、僕は、自分で「いい」と言い切れる確固たる作品を残していくことが重要なんだと解釈しました。ですから、もがきながらも自分の感覚を信じて、今後もひたすら写真を撮り続けていくつもりです。


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第4回ゲストもお楽しみに!!



桑島智輝プロフィール

くわじま・ともき●商業カメラマン。1978年生まれ、岡山県出身。

趣味=DJ、ラジオDJ

写真家・鎌田拳太郎氏に師事し、2004年に独立。2010年、株式会社QWAGATAを設立。

主な作品は、今年10月に発売された川津明日香1st写真集『明日から。』のほか、篠田麻里子『SUPER MARIKO』、安達祐実『私生活』、指原莉乃『猫に負けた』、今田美桜『生命力』など。溝端淳平『熱風少年』や新田真剣佑『UP THE ROAD』などの男性タレント写真集や広告写真も多く手がけている。また、2014年に女優・安達祐実と結婚し、その生活の様子を収めた写真集『我我』(2019)と夫婦旅の記録を収めた『我旅我行』(2020)を発表したことも話題となった。

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