2021年12月17日 取材・文/とり
あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。
第4回目のゲストは、先月発売された水湊みお1st写真集『みなとみないと』をはじめ、アイドルからセクシー女優まで、多くの女性タレント写真集を取り下ろしてきた西條彰仁氏。サッカー少年だった学生時代から、グラビアカメラマンに辿り着くまでのキャリアを聞いた。
――アイドルグループ「#ババババンビ」の水湊みおさんの1st写真集『みなとみないと』で感じたのは、不意をついたカットの多さ。まるで、その場で水湊さんが動いているかのような躍動感が印象的でした。そのあたりは、意識されていたことなんでしょうか?
西條 そうですね。漫画誌を中心にやらせていただいていた頃は、背景の色味や光、女の子のフォルムや表情など、その子がキラキラとして見えることが最優先だったので、自分のなかで完成された絵にこだわっている部分もありましたが、デジタルになってからは特に、その子のキャラクターが全面に出ているような写真を撮る意識が強くなりました。その点、水湊さんは普段アイドル活動をされている方ですし、表情作りがとにかくうまい。だからこそ、写真集を撮らせていただくときは、あえて表情を崩す気持ちで臨んでいましたね。
――なるほど。表情を崩す、ですか。確かに、作り込んだ表情だけだと、一方向のかわいらしさしか伝わらなくなってしまいますもんね。それでいうと個人的には、このカットが魅力的だと感じました。普段のアイドル活動やSNSの投稿では見たことのない笑顔だったので、「こんな風に、無邪気に笑うこともあるんだ」と、スゴく新鮮で。
西條 これは、波が当たるギリギリのところに座ってもらって撮れた一枚です。まさに、波が来た瞬間の表情ですね。普段、僕がタレントさんを撮らせていただくときに意識するのは、その子のファンでさえも意外性を感じるような表情(許される範囲で、ですが)。表情が崩れた瞬間に見えるチャーミングな一面を世間にお届けすることで、結果的に、「この子の表情は、こんなに振り幅があるんだ」と、より多くの人の心に刺さるかもしれない。それが女の子にとってプラスになるのであれば、マイナスイメージに繋がらない範囲で表情やポーズを崩すことは、大事な意識だと思います。実際、こうして不意をついたカットに対して、「今までに見たことのない笑顔だった」と反応していただいたわけですし。
――グラビアインタビューを読んでいると「自分でも見たことのない表情を撮ってもらえて、自信に繋がりました」といった女の子の言葉をよく見かけます。そのたびに、グラビアには偶然の数だけ可能性があるんだと実感していました。
西條 僕としては、山崎真実さんの写真集『re.』(光文社)を撮らせていただいたことで、自分のなかの意識が大きく変わった気がしていて。というのも、個人的にこの写真集は、かなり実験的な挑戦でもあったんですよね。そもそもは、山崎さんが「ミスマガジン2004」で読者特別賞を受賞し、グラビアデビューされた直後に、1st写真集『MAMI蔵』を撮らせていただいたご縁もあって実現したのですが、何年振りかに会った山崎さんからいきなり「特別な写真集にしたいので、汚い部分の私も撮ってください」と言われたんですよ。ヌードの写真集を作るわけでもないのに「現場においては、それもいとわないし、メイクもいらない。今までの”表面的なきれい”だけの写真集はもういいので、生きている姿を丸ごと全部撮ってください」と。正直、僕としては面食らいました。かつて、お互いに漫画誌でやってきたグラビアとは真逆のことだったので、「言っている意味、分かってるの?」くらいのお話で。「ちょっと考えさせて下さい」と言って一度、身を引いたほどです。ただ、山崎さんは相当な覚悟の上で僕に声をかけて下さったのは伝わっていたし、そこにどうにか応えたい気持ちもあったので、最終的には、僕もその思いに乗っかってみようと。台湾まで撮影に行かせていただくことになりました。
――「汚い部分の私も……」とは、どういう意味だったんでしょう?
西條 山崎さんも30代を迎えられて、女優として、いわゆるミスマガのイメージからはみ出たい気持ちが高まったタイミングだったんだと思います。彼女自身、それまでは、性的な表現や、自分が見て「いい」と言えない表情などを、極端に嫌っていたらしいんです。でも、そんな自分の壁を超える表現でやってみようと決心したうえで、この写真集に臨まれたそうで。僕も漫画誌の絶対感にとらわれていた時期があったから、山崎さんの気持ちはよく分かりました。それで、どういう手法で撮るのがいいのか、相当悩んだ挙句、とりあえず半日ほど、山崎さんと二人だけで過ごす時間を作ってもらうことにしたんです。光もろくに入ってこない狭い安宿で、長い時間を二人だけで共有して、関係性を構築しながら撮ってみるという試みでした。お腹が空いたら、近くにある屋台で何かを買って食べてみたり、お酒を飲んでみたり……。狭いラブホテルみたいな空間でしたから、光や背景を気にする余裕もなく、彼女の仕草に対してシャッターを押すことだけに夢中になっていましたね。
――写真は、撮る人と写る人の関係性で印象が変わるもの。写真表現としては原点回帰的な、純粋な試みでもありますよね。
西條 そうですね。少し話は戻るのですが、自分で暗室を作って写真をプリントしていた頃(一話参照)、荒木経惟さんの写真が好きでよく見ていたんです。写真への興味は、ニューヨークで流行っていたアートがきっかけではあったものの、素人だった僕にとって、当時の日本の人物写真においては、荒木経惟さんの影響がやはり大きくて。ちょうどそれくらいのときに、一度、荒木さんが審査員をされていた写真コンテスト(写真新世紀)に作品を出して、小さな賞をいただいたことがありました。そのとき撮った写真も、友人の女の子が一人で暮らしているアパートに何日も通って、そこでただ無為な時間を過ごしながら、その子の生活を写すという稚拙で生々しいものでした。
――心なしか、山崎さんの写真集と撮影スタイルが似ていますね。
西條 はい。だから山崎さんの写真集を経て、自分がプロとして写真を撮る行為と、当時写真を始めた頃に見ていた荒木さんの写真の本質を、ちゃんと理解できた気がしたんです。究極を言ってしまうと、荒木さんが撮り続けた妻の陽子さんの写真には敵いません。愛する人を撮っているんですから。グラビアとは、もはやジャンルが違います。でも、女の人を撮る以上、どうにかそこに近づけたいという気持ちは、この業界にいるほとんどの人が持っているんじゃないですかね。どれほど同じ時間を過ごして撮っても、グラビアはフィクションに過ぎない。それでも、現場で起こる予期せぬ出来事やハプニングが写るという意味では、ドキュメント的な側面も確かに存在していますし。
――フィクションであり、ドキュメントである……。
西條 矛盾しているようですが、そのフィクションとドキュメントをどうせめぎ合わせ、構築していくかが重要で。そのなかで商業的なニュアンスも理解しつつ、僕含め、みなさんいろいろと頑張っているんだと思います。山崎さんが「私の汚い部分も……」と言われていたみたいに、その人の本質的な部分を写すには、お互いに、ある程度、決まった形を崩す必要があります。崩れた部分にこそ、その子の魅力が隠れているとも。それを表に出すかどうかはタレントさんごとの判断になりますけど、現場では、その意識をなくさないよう心がけているつもりです。もちろん、仕事の種類にもよりますがね(笑)。
――崩すことで、プラスにする。その意識の大切さをより痛感するお話でした。しかし、キメの表情を崩されることに抵抗感のある女の子は少なくないはずです。
西條 むしろ、キメの表情を守ろうとする子の方が多いですよ(笑)。「いつもと違う一面を見せていった方が絶対にいいよ」なんて声をかけて、僕は僕で、なるべく“崩す”意識がブレないよう挑むんですけどね。
――西條さんが週プレで撮られた女の子のなかでも、菊地姫奈さんは、とりわけピュアな少女だったと思います。過去のグラビアを見ていても、柔軟な印象があるというか。それこそ『楽しく、健やかに』は、菊地さんがグラビアに慣れてきたこともあってなのか、無垢さと大人っぽさが混在した意外性のある表情がたくさん見られたデジタル写真集でした。
西條 菊地さんは、不思議な魅力がある子ですよね。素朴な高校生に見えて、ふと光が当たった瞬間に、とんでもなく美しい表情を覗かせることがあって。本人的には無意識だと思うんですけど、ありのままの状態での振り幅がものすごく大きい子なんですよ。撮らせていただいて、グラビアでご活躍されている理由がハッキリと分かりましたね。
――その感じ、読者目線から見ても分かる気がします。まだデビューして間もない女の子が、とてつもないオーラに満ちる瞬間がある。その奇跡との巡り合わせこそが、グラビアの面白さでもありますよね。
西條 先程もお話したように、グラビアの現場は、あらゆる状況のなかでさまざまな試みを繰り返す場だと思っています。菊池さんの時も「変なポーズになっても大丈夫だから」とかき氷を食べてもらったり、泥で遊んでもらったり、いろんなことを試しながら撮っていました。撮られる側の女の子の立場からすると「本当に大丈夫なの?」と不安で仕方がないとも思いますが、それらの試みがどう表情に繋がるかはやってみないと分かりません。素晴らしくいい表情が撮れる時もあれば、逆も然りです。遊びながら、時に過酷を強いながら既存の形を崩してみる。すると思いがけない化学反応が起きて、大きなプラスを生むこともあるので。
――その繰り返しなんですね。
西條 雑な言い方で申し訳ないのですが、僕が独立した当初、自分含め、多くのカメラマンがプロでいられたのは、フィルムを扱うのが難しかったからだと思います。ただ、グラビア誌が減って、誰でも簡単にきれいな写真が撮れる時代になった今、プロとして、グラビアの現場で何を写せるのか、グラビアだからできることは何なのかを、ちゃんと考えていくことが大切ですよね。
西條彰仁編・最終話は12/24(金)公開予定! 写真の極点は、愛する者を撮ること。
西條彰仁プロフィール
さいじょう・あきひと●写真家。1968年生まれ、埼玉県出身。
趣味=釣り、料理
写真家・藤田健五氏に師事し、独立。1998年、西條写真事務所を設立。
主な作品は、今年11月に発売された水湊みお1st写真集『みなとみないと』のほか、佐藤寛子『恋文』『水蜜桃』、松浦亜弥『アロハロ!2』、川村ゆきえ『香港果実』、山崎真実『MAMI蔵』『re.』、ほしのあき 『ダブ・ハピ DOUBLE HAPPINESS』、 道重さゆみ『LOVE LETTER』、譜久村聖『うたかた』『glance』(2022年1月発売)、矢島舞美『 Nobody knows23』、森戸知沙希『森戸知沙希』『Say Cheese!』『Crossroads』、石田亜佑美『20th canvas』、大島由香里『モノローグ』など。自然光を活かし、被写体の美しさや色気を滑らかに捉えた作風が特徴。