『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』西條彰仁 編 最終話「おすすめを知る」 写真の究極は、愛する者を撮ること

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。 

 

第4回目のゲストは、先月発売された水湊みお1st写真集『みなとみないと』をはじめ、アイドルからセクシー女優まで、多くの女性タレント写真集を取り下ろしてきた西條彰仁氏。サッカー少年だった学生時代から、グラビアカメラマンに辿り着くまでのキャリアを聞いた。 

 

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――第三話では「試す」という言葉をよく使われていましたが、西條さんが思う”グラビアを撮り続ける楽しさ”というのも、やはりその言葉に集約されているんでしょうか。


西條 そうですね。僕はグラビアの”何が起こるか分からない独特な現場感”が好きなんです。アシスタント時代にはじめてこの世界を見せていただき、面白いと感じたときから、その思いは変わっていません。例えば、たった半日程度の短い撮影で、そこまで関係性が出来上がっていないような状況の撮影でも、不思議と目の前にいる女の子の心の変化が分かるときがあるんです。それと一緒に、撮っている僕の心や現場全体の空気の動きが変化したら、その変化に応じて出てくるアイデアをどんどん試してみる。そうして撮った写真は、背景が散らかっていたり、一枚の写真としてキマっていなかったりはするものの、より女の子が生き生きと写っていることがあるんですよね。


――撮ってみないと分からない面白さがあると。


西條 自然光を使って、なるべく自然な姿を写す。あの現場感は、グラビアならではのものだと思います。ある程度コンセプトが決まっている撮影でも、予定調和に身を任せるだけでなく、もう少し踏み込んだ写真が撮れるような意識は、常に持っているようにしていますね。柔軟な発想で自由にいろいろなことを試せる現場が楽しいんです。その試みがうまくいったときの充実感を求めて、グラビアを撮り続けているようなところはありますね。


――ということは、撮影中はポージングを指定するよりも、女の子の自由な動きに委ねることの方が多いですか? 


西條 そうですね。なるべく過度な説明はしないようにしています。細かく説明をすれば、みなさんそれをやろうとしてくれるんですが、それをやろうとしている時点で、その子の自然な感じではなくなってしまう気がして。その場所で、そのタイミングで、その子がどう感じて動くのか?本当はそこを撮りたいんです。とはいえ、自由に動くのが苦手な子もいますし、その時々によりますね。


――「素を撮りたい」と言って、その子が素を意識してしまったら、もうそれは素ではないですもんね。それにグラビアは、普段なかなか表に出さない人間味のある表情が見られる“ギャップを楽しむもの”でもあるので、さまざまな試みあってこその作品だと、私も思います。


西條 それからギャップという意味では、水着グラビアに着衣のカットを入れるのも重要だと思います。きれいな姿、あるいは普段の可愛らしさや親しみやすさが感じられるカットを見せることによって、その女の子に対する共感性がさらに生まれるというか。その子の水着姿の見え方が全然違って見えると思うんです。いかにしてギャップを感じてもらうかは、ヌードも含め、グラビアの見せ方の一つではないでしょうか。


――改めて、西條さんが撮られたグラビアを見て、ひとつ踏み込んだところにある女の子のギャップを感じてみたくなりました。ここで、週プレ グラジャパ!にて配信中のデジタル写真集のなかから、特におすすめの一冊をお聞きしたいのですが。


西條 一冊ってなかなか選べないですよね(笑)。……まぁでも、川村ゆきえさんの『Into~2部作~ vol.2 Into the DEEP FOREST』は思い出深い撮影でしたよ。デビュー15周年記念の節目に、週プレで約2年ぶりの撮り下ろしをしようって話で、僕と小塚毅之さんがカメラマンに指名されたんですね。というのも、川村さんがグラビアで活躍されていた時期にたくさん撮らせてもらっていたのが、僕と小塚さんだったんですよ。そういう縁もあって。それぞれ撮影期間が二日ずつ与えられたので、僕は富士の樹海へ、小塚さんは海の方へ。偶然にも対極のロケーションのなか、自由に撮影させてもらいました。僕が川村さんにお会いするのは、10年以上ぶりでしたかね? それくらい久々だったので、懐かしさに浸りながら撮らせてもらった覚えがありますね。


――そうだったんですね。久々にお会いしても、撮らせていただく感覚は当時と変わりませんでしたか? 


 


西條 変わらなかったですね。それどころか、改めて川村さんの気持ちの強さに驚かせれましたよ(笑)。虫がたくさんいる樹海で横になってもらったんですけど、泣き言一つ言わなかったですし、冬場の撮影だったにもかかわらず、ためらうことなく河口湖に入っていきましたから。本当、スゴい方だと思いましたよ。


――個人的には、犬童美乃梨さんの『グラドル進化形』も印象深かったです。90年代に放送されていたカップヌードルのCMのパロディ。やかんを振り回すアーノルド・シュワルツェネッガーさんのポージングを、犬童さんが見事に再現されていました。これまでのお話いただいた内容とは打って変わって、非常にコンセプチュアルなグラビアでしたよね。


 


西條 あの元ネタ、今どき知っている人いるのかなぁ(笑)。と思いつつも、これは、美ボディコンテストで二冠(「サマー・スタイル・アワード」ビューティフィットネスモデル部門・カップルモデル部門で優勝)を獲得され、「グラドル界No.1美BODY」と称される犬童さんならではのグラビアでしたね。いわゆる王道のグラビア感とは若干、系統が違うのかもしれませんが、楽しい撮影でした。このパロディは編集の方のアイデアだったんですけど、そこに乗ってみることは、思いがけない面白さが生まれる大切なヒントになっているんだなと感じましたね。


――常に試す意識を持たれているとはいえ、パロディ要素を分かりやすく見せるとなると、自由度も下がると思います。このようなグラビアを撮るときは、どんな意識で撮影されているんですか?


西條 こういった撮影に意欲的になることも、試みのうちです。今の世の中は30〜40代が中心で回っているのかな? 週プレの購買層も、それくらいの世代の方が多いですよね。その世代の方たちがこのグラビアを見たときに、どういう反応をされるのか。それを知れるのが、とても新鮮なんですよ。きっと、今とひと昔前とじゃ、反応が全く変わってくるはずじゃないですか。だから、あえて自分と違う世代の方たちの感性にもどんどん乗っかっていきたいし、作風みたいなものに縛られることなく、自由に、フワフワと、いろんなグラビアを撮っていきたい気持ちもあるんですよね。


――なるほど。それでいうと最近は、写真集もデジタルの時代です。印刷で見るのとデータで見るのとでは、感覚がまるで違うと思うのですが、西條さんはどう感じますか?


西條 フィルムカメラの時代からやってきた身からすると、デジタルカメラで撮った写真って、印刷になると、思うような色が出にくいんですよね。もう、みなさんそれに目が慣れてきてしまったかもしれませんが、その点、液晶画面では鮮明に色が出ます。時代的なニーズも手軽さにあるわけですし、デジタル写真集は、今の時代にあったコンテンツの在り方だと思いますよ。ただ、最初にお話ししたように、僕らの時代の情報源は紙の本がメインでした。でも今は、インターネットで何でも検索できてしまいます。そう思うと、デジタルの利便性により失われた“自分の足で情報を得る感覚”が、スゴく貴重なものだったんだと痛感しますね。


――おっしゃる通り、すぐに調べものができる反面、自分の肌感覚で何かを知るという行為から離れがちになってきている気はします。


西條 まぁ、デジタル写真集でいうと、その利便性を活かして、どう見せていくかを考えないといけないですよね。本誌の数ページに載せられなかったカットをたくさん見てもらえるのはデジタル写真集の良さであるものの、際限のなさはどうなのかなとも思います。今のデジタルの感覚を学びながらも、これまで人を撮るうえで学んできた本質の部分も、常に意識してやっていきたいですね。


――では最後に、今後の展望を教えてください!


西條 やはり人を撮る現場は大好きなので、そこで自分がどこまでやれるのか、できる限り挑戦したい気持ちと、とことん現場感を楽しめたらいいなという気持ちがあります。どこまでやれるかは、自分で決めることもできますし、周りが決めてくれることもあるでしょうし。


――それは、第三話でお話しされていた”フィクションとドキュメントをどうせめぎ合わせるか”に通ずる話でしょうか。時代が変わるごとに、ドキュメント性の生み出し方やリアリティの感覚もアップデートされていくと思うと、自他ともに、ドキュメント性を立たせることに、いつか限界を感じる瞬間が訪れるのも仕方がないような気がして。


西條 そうですね。仕事の内容にもよるんですが、人を撮るとき、それが”フィクションであること”は大前提にあって、そこからその人の個性を一部分でも引き出すことで、ノンフィクションに触れたいと思っています。ですから、どうやって被写体との関係性を構築するかで、あがってくる写真も変わるはずで。男である僕が女性を撮る場合、少なくとも男が女を見る目線というのは重要だと思っています。だから僕は、例えどんな女の子を撮る場合でも、必ず自分が好きになれるポイントを探すようにしています。それは性格でもいいし、単なる唇の形でも、全体の雰囲気でも、何でもいいんです。それで僕の興味が高まることによって、関係性がいい方向にまわれば、結果としていいものが撮れていく気がしているので。前話で荒木(経惟)さんのお話もしましたが、人を撮るうえでの究極は、愛する人を撮ることだと思っています。親が子どもを撮る、恋人を撮る、結局それには敵わないんですよね。それを言うと、グラビアの観点の話とは離れていっちゃうのですが(笑)。


――確かに。その観点からすると、歳を重ねられるごとに、女の子との向き合い方を考えていく必要がありますよね。


西條 男と女といっても、お父さん的な認識でもいいし、たまにおかしなことを言う面白いおじさんでもいい。女の子が心を寄せてくれるポイントがどこかにあれば、きっとそれでいいんです。大切なのは、どう相手を思いカメラを向けるか。それが”人を撮る本質”なんだと思います。


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 第5回ゲストは、浅倉唯さんのデビューグラビアも手掛けたTakeo Dec.さんが登場! 2022/1/7(金) 公開予定です。お楽しみに!!

 


西條彰仁プロフィール 

さいじょう・あきひと●写真家。1968年生まれ、埼玉県出身。 

趣味=釣り、料理 

写真家・藤田健五氏に師事し、独立。1998年、西條写真事務所を設立。 

主な作品は、今年11月に発売された水湊みお1st写真集『みなとみないと』のほか、佐藤寛子『恋文』『水蜜桃』、松浦亜弥『アロハロ!2』、川村ゆきえ『香港果実』、山崎真実『MAMI蔵』『re.』、ほしのあき 『ダブ・ハピ DOUBLE HAPPINESS』、 道重さゆみ『LOVE LETTER』、譜久村聖『うたかた』『glance』(2022年1月発売)、矢島舞美『 Nobody knows23』、森戸知沙希『森戸知沙希』『Say Cheese!』『Crossroads』、石田亜佑美『20th canvas』、大島由香里『モノローグ』など。自然光を活かし、被写体の美しさや色気を滑らかに捉えた作風が特徴。 

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