2022年5月27日 取材・文/とり
あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。
第9回目のゲストは、橋本萌花の初グラビア『社長令嬢はウーバーイーツ』ほか、尾碕真花や寺本莉緒などのグラビアを多数撮り下ろしてきた栗山秀作氏が登場!関係性から作り上げるグラビア、そして奥深き白ホリの魅力を語る。
――栗山さんといえば白ホリ。週プレグラジャパ!にある作品のなかだと、浅川梨奈さんの『グラビア十景』(註:デジタル写真集に白ホリのカットは未収録)や山谷花純さんの『見せたいもの、見せてあげる。』などが印象的です。正直なところ、個人的には、最近まで白ホリの良さに気づけていなかったんですよ。でも、栗山さんの白ホリを見ていると、女のコの魅力がくっきりと浮かび上がるばかりか、何もない真っ白な空間だからこそ伝わる感触がある気がして。
栗山 ありがとうございます(笑)。そうやって言ってくださる方が増えるとうれしいんですけどね。時間がなかったから、天気が悪かったから、仕方なく白ホリで撮った、みたいな。悲しいことに、手抜きパートだと思われがちなんですよ。例えば、「8ページ中4ページを白ホリにするのもアリじゃない?」なんて提案をしても、なかなか通らない。「白ホリで4ページはもったいないですね」「いやいや、もったいないって何!?」って。「栗山くんの白ホリなら、全ページいけますよ」と言ってもらえるくらい、もっと頑張らなきゃなぁ。
――外ロケに行けば、自然と物語が生まれますからね。感情移入しやすい、分かりやすいグラビアを流れのなかで作れてしまうというか。
栗山 その点、白ホリは残酷ですよね。ロケーションのきれいさや自然光の複雑さが助けてくれない分、誤魔化しもきかないから、被写体に力がないと成り立たない。僕がどうこうというよりは、撮られる女のコ側の覚悟や表現力が何よりも大事なんですよね。女のコにとっては、なかなか酷かもしれませんが。
――そうですよね。自分が白ホリでどう撮られるか。想像するだけでも戸惑ってしまいます……。
栗山 撮影に慣れていないコが、いきなり白ホリに立たされているのもかわいいけどね(笑)。表現力のあるコ以外は白ホリで撮らない方がいいよとは思っていないし、逆に、カチコチになりながらも一生懸命にポージングをしている“おぼつかなさ”は、演技で出せるものでもないじゃない。そういえば、昔はよく集英社スタジオ(ファッションの撮影でも使用される集英社の自社スタジオ。シンプルな白ホリでの撮影が可能)で、1日かけてテストシュート(新人のテスト撮影。基本、誌面には載らない)をやっていたんですよ。何時から何時までは〇〇の事務所といったタイムスケジュールで、事務所イチオシの女のコが10人くらいやってきて、ひたすら撮っていくんですね。あれ、結構好きなんですよ。どんなに無垢なコでも、撮っていくと人柄が透けて見えてくるから。
――良くも悪くも、白ホリは、女のコの全てを暴いてしまうと。そもそも栗山さんは、荒木経惟さんのような人物をメインに撮られるカメラマンさんに憧れていたわけじゃないですか(一話参照)。つまるところ、栗山さんがお好きな白ホリというのは、まさに“人物”を撮るのにいちばん適している場所なのかもしれないですよね。物語や背景を取っ払って人に向き合える環境は、白ホリの特権ですし。
栗山 あぁ、そうかも。今、言われて「確かにそうだ」と思いました(笑)。実際、なるべく誤魔化さず、ストレートに撮ろうというのは、僕が白ホリで女のコを撮る際に意識していることですし。やっぱり“人物”が撮りたいんでしょうね。あの、たまに「栗山さんの白ホリいいですね。どんなライティングをしているんですか?」と聞いてくださる方がいらっしゃるんです。でも僕、基本ライトは一灯なんですよ。
――シンプルですね。やはり、誤魔化さないために?
栗山 それもそうですし、アシスタント時代、丸谷さんに言われたことがあるんです。「栗山、太陽っていくつある?」「ひとつです」「そう、ひとつなんだよ」って。当時、複雑に考えすぎて、ライティングの組み方に迷っていた僕からすれば、目から鱗でしたよ(笑)。屋外の撮影だって、光が反射して複雑に入り組むことはあっても、光源はひとつ。気にしないといけないのは、その一つの光をどう当てるかだけなんですよね。
――おぉ〜。ライティングを組んだことは一度もないですけど、めちゃくちゃ腑に落ちましたよ!
栗山 その話を丸谷さんにしたら「おれ、そんなこと言ってたっけ?」と言われましたけどね(笑)。
――読者の方にも白ホリの魅力が伝わりそうな、いいお話が聞けました。と、ここで少し話が変わりますが、週プレグラジャパ!からリリースされているデジタル写真集のなかで、栗山さんお気に入りの一冊を教えてもらえますか?
栗山 そうだなぁ。華村あすかちゃんの『あしたへ。』とか?デジタル写真集の最後の方にあるこのカット。撮影終わりに、みんなで晩ご飯を食べに行った帰り道で撮った一枚なんですよ。雪のなかにいる華村ちゃんがあまりにもかわいかったから、急いでカメラを取りに戻って。
――そうなんですね!確かに、かわいい。
栗山 ただ、こう改めてデジタル写真集のラインナップを見返すと、雪景色のなかで撮ったグラビアが多い気がするなぁ。
――言われてみれば、寺本莉緒ちゃんの『the four seasons』やCYBERJAPAN DANCERSの『はる、さむ、ぎゃる』にも雪のロケーションがありましたね。
栗山 あったあった!初グラビアの(岩佐)真悠子ちゃん(三話参照)も雪の北海道だったし(笑)。もしかしたら僕、雪景色が好きなのかなぁ?
――どうなんでしょう(笑)。栗山さんから「雪景色のなかで撮りましょう」と提案されている部分もあるんですか?
栗山 初グラビアの真悠子ちゃん以外は大体そうじゃないかな。何なら、僕からの提案なしに雪原に行くなんてことは、ほとんどない気がします(笑)。
――あの、これはただの思い付きなんですけど、白ホリと雪景色の関連性ってあるんですかね?
栗山 あぁ、白だから(笑)?
――それもありますし、撮影のシチュエーションとしてはどちらも酷じゃないですか。
栗山 うーん、どうなんだろう?その二つを並べて考えたことはないけど、僕が雪のなかで撮るのが好きなのは、みんなが覚悟を決めて撮影に挑めるからなんですよね。というのも、雪に限らず、僕の撮影って短時間なんですよ。例えば、離れたところからカメラに向かって走ってくる瞬間を撮るとするじゃないですか。で、「もう一度やったら、もっと良いのが撮れるかも」って、何回も同じ動作を繰り返すことがあると思うんだけど、僕は、極力それをやりたくないんです。仮にブレていたとしても、最初の反応を写した1回目がいちばん良いと分かっているから。2回、3回とやって、うまくいった試しもないですしね。これが雪のなかだと「一発で決めよう。じゃないと凍え死ぬ!」と気合が入るから、ハズレが少ないんですよ。
――時間をかければかけるほど、寒さにやられて、顔に疲れも出てきますしね。
栗山 そうそう。もし表現力に自信がないとしても、モジモジしている暇がないんです(笑)。そう思うと雪は、白ホリとはまた違ったニュアンスでそのコを暴く場所と言えそうですね。どこでもパッパッとできるコなら、わざわざ雪原なんかに連れて行かなくても良いんだろうけど。
――思い付きの質問でしたが、やはり近いところに帰結しましたね。そう言えば、ご存知です?最近「雪グラビアやってみたい」って女のコ、多いんですよ。
栗山 え、そうなの?
――はい。インタビューでたびたび耳にします。雪のなかで水着になる珍しさや雪で肌が映えることが人気の理由みたいです。需要高まってきていますよ。スタッフ陣はどうか知りませんが(笑)。
栗山 とはいえ、泊まりロケ同様に(三話参照)、コロナの影響で、雪が降り積もっている地域にもなかなか行けなくなってしまったんですよね。また機会があれば行きたいです。
――では最後に、今後の展望を教えてください。
栗山 えぇ〜(笑)!今後の展望!?
――毎回、どのカメラマンさんにもお聞きしているんです!
栗山 そうだなぁ。まぁ、インタビュー中にお話ししたように、一度撮らせてもらったコを2回、3回と撮らせてもらえるのはうれしいですし、そのようなご縁を大事にしたい気持ちはずっとありますね。あとは、新人さん。これからデビューする名の知れない女のコを定期的に撮れる場があると良いなぁとは思いますね。
――新人さん、ですか?
栗山 はい。それがちゃんとお金になれば、新人のコも事務所さんも、喜んで参加してくれるんだろうけど、最悪お金にならなくても僕はやりたい。ネームバリューのあるコを撮って、雑誌が売れる、デジタル写真集が売れるのも、確かに大事です。でも、微力ながらも、まだ駆け出しのコをスタートラインに立たせてあげるような場所が、もう少しあっても良いような気がしません?
――そうですね。今やSNSの時代とはいえ、グラビアに携わる人たちが積極的にそういう場を作っていくことには、大きな意味がある気がしますよ。
栗山 以前『アップトゥボーイ』(ワニブックス)で、新人の女のコ3人を2ページずつ、全編白ホリで撮るってコーナーをやっていたんですよ。白ホリが6ページも続くわけだから、自然と目に止まる読者も多かったようで。業界内の評判も良く、「ぜひ、そのコーナーに出してください」といった事務所からの問い合わせも結構あったみたいなんです。そういう企画は、またやってみたいなぁと思いますね。現実的な話、僕個人でやるよりは、週プレとか、大きいメディアが枠組みを作ってくれるとより意味があると思うんだけど……、どう(笑)?
第10回ゲストは、YJ初登場時から雪平莉左を撮り下ろし、1st写真集『とろける』まで手がけた佐藤佑一さんが登場!2022/6/3(金)公開予定です。お楽しみに!!
栗山秀作プロフィール
くりやま・しゅうさく ●カメラマン。1972年生まれ、高知県出身。
趣味=映画鑑賞
写真家・丸谷嘉長氏に師事し、2000年に独立。
主な作品は、小松彩夏『アヤカのナツ』、『アヤカのゼンブ』2004、堀北真希『Castella~カステラ』2006、岩佐真悠子『IWASA MAYUKO』2007、真野恵里菜『MANO DAYS ~二十歳の初恋~』、『Escalation』、『ERINA』、火将ロシエル『ignis』など。スタジオでの撮影も得意としており、ファッションブランド・KIKS TYO×週プレコラボTシャツの撮影も手掛けている。