2022年6月17日 取材・文/とり
あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。
第10回目のゲストは、『週刊ヤングジャンプ』にて雪平莉左の初グラビアを撮り下ろし、今年4月に発売されたファースト写真集『とろける』までを手掛けた佐藤佑一氏が登場!グラビアを撮る際のコミュニケーションや、カメラを持ち始めた頃から撮り続けている母の写真について語る。
――渡辺(達生)さんのもとから独立されたあとは、どのようにしてお仕事を?
佐藤 ありがたいことに、独立して間もないうちから、グラビアページの仕事を任せてもらっていました。各出版社に営業はしたものの、何より、渡辺さんの現場でお世話になった編集さんが気にかけてくださったことがデカかったですね。特に、週プレの編集さんにはかわいがってもらっていたので、週プレデビューでいうと、同門の先輩である樂滿さん(カメラマンのLUCKMAN氏)や藤本さん(カメラマンの藤本和典氏)より早かった気がします。お二人とも、ほかの雑誌ではグラビアを撮っていたはずですけど。
――それはスゴいですね!週プレでの初仕事は何だったんですか?
佐藤 最初はグラビアでなく取材ページでした。具体的に何が最初だったかは覚えていませんが、2010 FIFAワールドカップの時期に川島永嗣選手を撮らせてもらったり、ビーチで遊んでいる素人美女をひたすら撮りまくる週プレの毎夏恒例企画「水着美女キャッチ」を担当させてもらったり、いろいろやらせてもらいましたよ。そうそう、「水着美女キャッチ」は、おかもっちゃん(カメラマンの岡本武志氏)と一緒に撮りに行くことが多かったんですよね。懐かしいなぁ。
――佐藤さんと岡本さんは、ほぼ同時期に独立した同期なんですよね。本コラムで岡本さんにお話をうかがったとき、岡本さんも「水着美女キャッチ」の話をされていましたよ。
佐藤 僕らって、ほぼ同期にして、分かりやすいくらい女の子の好みが真逆なんですよ。ギャル好きのおかもっちゃんは、ビーチでもギャルばかり追いかけていて。ギャルしか撮れ高がないから、よく編集部で怒られていましたね。その瞬間、自然と僕の評価がちょっとだけおかもっちゃんを上回る、なんてことも多々ありました(笑)。
――初々しいエピソード(笑)。初めて担当したグラビアは覚えていますか?
佐藤 セクシー女優・天海つばささんのヌードだったと思います。アシスタント時代に知り合った年の近い編集の方と、お互いに手探りしながら何とか撮影をした覚えがありますね。
――おぉっ、ヌードが最初だったんですか!?
佐藤 そうなんです。まだ独立したばかりでしたし、編集さんも当時はまだ新人。渡辺さんから「さすがに早すぎるんじゃない?大丈夫?」と、心配のご連絡をいただいたほどでした。でも、楽しかったですよ。上野公園や鶯谷のホテル街を舞台に、駐車場でコッソリ服を脱いでもらうなど、少し尖ったことをやろうと工夫して頑張っていました。今では絶対にできない撮影だと思います。
――屋外でのヌード撮影は、当時でもなかなかハードルが高い気がします。ただ確実に、まだ新人だった当時だからこそできた撮影でもありますよね。
佐藤 ロケバスも用意していなかったから、全部自分たちで運転していたんですよ。今じゃ考えられないですよね(笑)。
――ほかに、独立当初のお仕事で印象的だった撮影はありますか?
佐藤 優木まおみさんの巻頭グラビアを撮ったことですね。これまた独立1年未満のうちに任せてもらったお仕事で、僕にとって、初めての巻頭グラビアだったんです。しかも相手は、テレビで大活躍しているタレントさん。スゴく緊張しましたよ。ここで何かやらかしたら、一瞬にしてカメラマン人生が終わってしまうかもしれないと、勝手に自分を追い詰めては、現場で空回りまくっていましたね。
2011年5月30日発売『週刊プレイボーイ22号』に掲載
――苦い思い出が残る現場だったんですね……。
佐藤 はい。ただ、このとき現場にいたヘアメイクさんが「佐藤、巻頭だからって気を張らなくていいから。いつも通りやんなよ」と励ましてくださったんです。以前から他の現場で何度もお世話になっていたヘアメイクさんだったのですが、その言葉にはかなり救われましたね。早いうちからお仕事をいただくなかで何とか現場をやってこられたのは、周りで支えてくださるスタッフさんがいてくれたおかげ。そう実感したという意味でも、この現場は思い出に残っています。
――ところで佐藤さんは、大学時代にアシスタントとしてアダルトビデオの撮影現場に行った際、「特別な気持ちが入っていないだけで、こうも行為が仕事になるんだ」と衝撃を受けたと話していましたよね(二話参照)。グラビアカメラマンとしてお仕事されている今は、この“気持ち”と“仕事”の繋がりを、どう捉えていますか?
佐藤 言葉にするのが難しいですね(笑)。まぁ、毎回、女の子のことを好きになっていたら大変ですけど、僕の後ろには、その子のグラビアを楽しみに待っている読者がいるわけじゃないですか。読者が見たいその子の姿を撮るには、少なくとも僕が男目線でその子を見ないといけないというか。仕事として、それなりの気持ちを持ちながら、撮影するようにはしていますね。なかには、僕がどんな目線で見ようと、器用にいろんなバリエーションの表情を見せてくれる子がいますが、ただその表情を追うだけでは、読者の方には響かないと思うので。
――確かに、その子が得意としている表情ばかりが続くのは、グラビアとして味気ないですよね。どうしても、現場の流れで生まれる意外性や感情的な部分が見たいと思ってしまいます。
佐藤 ですよね。となると大事なのは、撮影する側の僕の気持ちです。相手に興味を持って、積極的にコミュニケーションをとって、相手の魅力的なところを知っていく。そうしていかないと、女の子の笑顔や美しさを“ただ切り取っただけの写真”になってしまいます。おっしゃる通り、意外性や感情的な部分には結びつきませんよね。母ちゃんや彼女を撮るときの気持ちとは違うものの、僕自身が、相手に対して何かしらの気持ちを持っていないと、グラビアは撮れないと思います。
――写真を始めた頃の、カメラを介すことでお母さんとのコミュニケーションが生まれた話に通ずる気がします(一話参照)。撮る側の気持ちと、撮られる側の気持ち。ここまでお話を聞いた感じ、基本的に佐藤さんは、何を撮るか以上に、互いの気持ちに重きを置いている印象を受けます。
佐藤 そもそも僕、「自分の写真はこうだ」って決めつけるのがあまり好きじゃないんですよ。編集の方が求める形は意識しますが、あとは現場でのコミュニケーションをもとに世界観を作っていきたいと思っているんです。たまに自分でもビックリしますよ。「え、こんな写真が撮れたんだ」って。女の子とコミュニケーションが写真の幅を広げてくれるというか。自分でも想像していなかった写真が上がってくることは、いまだによくあるんですよね。
――コミュニケーションというと、雪平莉左さんはどうでした?ヤンジャンでの初グラビアからファースト写真集『とろける。』まで継続的に撮影されていますが。
佐藤 雪平さんとのコミュニケーションは、ちょっと独特ですね。さっきの話と少し矛盾するかもしれませんけど、最初に雪平さんを撮影させてもらったときに、感じたんですよ。彼女を撮るには、コミュニケーションで感情を写すのではなく、いかに美しさを見せられるかだって。きっと、彼女自身もそれを望んでいるだろうと思いました。だから、何度も撮影させてもらっているとはいえ、コミュニケーションによるアプローチを繰り返したわけではないんですよね。
――美を追求していくことが、雪平さんとのコミュニケーションになったという感じでしょうか?
佐藤 そうですね。テーマやストーリーはない。ただ、“雪平莉左の美しさ”があればいい。ヤンジャンでは、毎回そんなふうにして雪平さんを撮影してきました。スタイリングも、メイクも、ロケーションも、全ては雪平さんの“美”を最大限に引き出せるかどうか。『とろける。』は、まさにその集大成なんですよね。
雪平莉左ファースト写真集『とろける。』より
――クールだったり、キュートだったり。いろんな雪平さんが見られる一冊で、とても読み応えがありました。“美”を追求されていたのも伝わってきます。どのカットも、漏れなく美しいですよね。
佐藤 とはいえ、やっぱり写真集です。普段の撮影と違って、撮影にかけられる時間も長かったですし、ふとしたタイミングで、雪平さんの感情に踏み込めた実感もありましたよ。例えばこの、雪のカットとか。「おっ、こんな表情も見せてくるのか」って、うれしくなりました。一見すると高嶺の花な雪平さんですが、実際は笑顔の多い、親しみやすさのある女の子。感情の動きが見える素に近い表情をも撮ることができたときは、僕も手応えを感じましたね。徹底的に追求された“美”と感情的な部分がバランス良く入り混じった写真集になったんじゃないかなぁと思います。
雪平莉左ファースト写真集『とろける。』より
――女の子とのコミュニケーションは、グラビアの基本かなと思うのですが、スタッフみんなで“美”の追求に振り切ることがコミュニケーションになるというのは、少し新鮮に思いました。
佐藤 せっかく写真を撮るのなら、女の子の“本当の部分”に触れたいと思うものだけど、どれだけ撮影を重ねても、僕らが知れるのは女の子の表層の一角に過ぎない。言ってしまえばお仕事ですし、女の子の“本当”は底知れないですからね。だったら僕は、現場にある“本当の部分”を撮りたいって思うんです。雪平さんの場合は、みんなで彼女の美しさを追求することが、僕らが知りうる彼女の“本当の部分”に近づける方法だったという感じですね。
佐藤佑一編・最終話は6/24(金)公開予定! 「自分がどんなカメラマンになっていくかを、自分も楽しんでいたい」。思い入れのあるグラビアと今後の展望を語る。
佐藤佑一プロフィール
さとう・ゆういち ●カメラマン。1981年生まれ、東京都出身。
趣味=サウナ、サーフィン
カメラマン・渡辺達生氏に師事し、2010年に独立。
主な作品は、芹那『しるし』、桜庭ななみ『Birth』、都丸紗也華『とまるまる』、大友花恋『Karen』『Karen2』『Karen3』、戸田れい『TRENTE』、伊東紗冶子『SAYAKO』、新内眞衣『どこにいるの?』、鹿目凛『ぺろりん』、福原遥『はるかいろ』、伊原六花『rikka』『sáu hoa』、平祐奈『Comme le Soleil』、上西怜『水の温度』、薮下楓『さよならの余韻』、早川渚紗『なぎちぃ』、雪平莉左『とろける。』など。2005年に実母のヌードを撮影した作品『感情日記』でNikon juna21を受賞。