『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』藤本和典 編 第三話「こだわりを知る」 思うがままの自由な発想力「いつかは全ページで食パンが登場するグラビアを」

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第15回目のゲストは、大原優乃の初グラビア(デジタル写真集『実は私、○○だったんです』)や、現在グラビア界で話題沸騰中のYouTuberいけちゃんの最新グラビア(デジタル写真集『AS FREE AS A BIRD』)などを手掛けた藤本和典氏が登場。取材はまさかのキャンプ場で!? 一風変わった彼の個性と作品を探る。


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――アシスタント卒業後は、半年間インドを放浪され、帰国後は尽きた貯金を取り戻すためアルバイトに励まれた……と。その後、今に繋がるカメラマンのお仕事は、どのようにして?


藤本 最初は、雑誌のお仕事なんてもらえなかったから、小学生の運動会の写真を撮影するカメラマン専用サービスに登録してお仕事をしていました。芸能事務所や先輩の紹介で、舞台写真なんかも撮影させていただいていましたね。インドに行っていた分、同門(渡辺達生氏)の樂滿(直城/LUCKMAN)さんや佐藤(佑一)よりスタートダッシュも遅かったし、本格的にグラビアのお仕事を始めるまでは時間がかかった気がします。それこそ、週プレでのお仕事が増えたのは、2016年に『渡辺家 素顔のアイドルたち1974−2016』(集英社/グラビアの第一線で長く活躍している渡辺達生氏の40年以上にわたる総集編写真集。元アシスタントである藤本氏らも出演し、競作ショットや対談なども収録されている)が出版されてからでしたし。


――えっ! それ、6年前じゃないですか! そんなに最近だったんですか?


藤本 多分……。確か、『渡辺家』を作るにあたり、過去に週プレで撮影したグラビアを資料に出そうとした時、僕だけ使える写真がなかったんですよね(笑)。他の媒体で撮った水着グラビアはあったんですけど。


――そ、そうだったんですね。当時は、どの媒体でお仕事されることが多かったんですか?


藤本 『B.L.T.』(東京ニュース通信社)かなぁ? でも、そもそも最初のうちは、水着グラビアのお仕事も多くなかったです。いまだに、撮らせてもらうタレントさんの男女比は半々くらいですし、いろんな媒体でバランス良く撮らせてもらっていた感じですね。


――女の子、もしくは男の子のグラビア、どちらかに特化したいとは?


藤本 思わなかったですね(きっぱり)。どちらかと言われると女の子が好きですけど(笑)、女の子を撮るスタイルと男の子を撮るスタイルは、全く別物ですから。お仕事の中で、その両者を使い分けられる方が絶対に良いです。例えば女の子のグラビアだと、胸が見えているカットを撮るのはマストじゃないですか。でも男の子のグラビアを撮るのに、その意識は必要ない。そうやって脳を切り替え続けていると、極端な話、「今度は、男の子を撮る意識で女の子を撮ってみるのはどうだろう?」と、新しい発想にも繋がっていくんです。その発想が誌面に使われるかどうかは別として、現場では常に柔軟でいないと、面白みのない写真ばかりになってしまいますよ。


――確かに、おっしゃる通りですね。週プレのグラビアを撮られるようになるのは、まだ先の話かと思いますが、その間、何かターニングポイントとなるお仕事はありましたか?


藤本 とある媒体で女優さんの撮影をさせていただいた時に、編集の方から、「今回は藤本さんが思うように撮ってみてください」と言われたことですかね。それまでは「ちゃんとピントを合わせなきゃ」とか「画角を調整しなきゃ」とか、いろいろ考えながら撮影を進めていたんですよ。それこそ自由な発想なんて考えられなかったし、やっぱり、良い写真が撮れている実感も持てなくて……。ただ、そこで本当に思うがまま撮ってみたら、その編集さんが、ピンボケした寄りの写真を見開きの扉にドーンと使ってくださったんですよ。


――ピンボケの写真を扉に!? なかなか粋な構成ですね。


藤本 そうそう(笑)。まさかそんな写真が選ばれるとは思ってなかったから、「こういう風に構成してくださるんだ」とビックリしちゃって。「仕事とはいえ、思うがままの感覚で撮っても良いんだ」と自分らしい写真に自信が持てるようにもなりました。周りからも評価していただけたのか、仕事のオファーもグッと増えましたね。


――へぇ。素敵な編集さんとの出会いがあったんですね。


藤本 改めて大学生の頃に撮った写真を見返すと、ピントなんてひとつも合っていないのに、当時の僕の気持ちとか、その瞬間の空気感が鮮明に写っている気がして、案外良いんですよね。もちろん、仕事として成立するクオリティではないし、雑誌の撮影で10枚中10枚がボケちゃうのはダメですけど、1枚くらい、その時の感覚に任せた写真があっても良いというか。グラビアの自由さに気づかせてくれたその編集さんとの出会いは、僕にとってスゴく大きなことでしたね。あと、いろんな編集さんから反響をいただいたグラビアでいうと、2016年の『blt graph.vol.8』(東京ニュース通信社)に掲載された「くまったん」もありましたね。


――く、くまったん……?


藤本 乃木坂46のまなったん(秋元真夏さん)とコストコに売ってある3.4メートルの巨大なクマのぬいぐるみのコラボグラビアです。タクシーに乗ったり、海に行ったり。一緒に旅する様子を撮影させてもらったんですよね。斬新だし、かわいいし、まなったんとぬいぐるみのクマが心を通わせている感じが、ちょい“エモい感じ”に仕上がって。「面白い撮影をやっていますね」「くまったんを超えるような“エモさ”のあるグラビアを撮りませんか?」と、いろんな編集さんから声をかけていただきました。


――「思うがまま」から転じに転じた不思議な世界観ですね(笑)。そういえば昨年、グラビアアイドルの菜乃花さんと開催されていた写真展『かわいいじゃない』(週刊ポストよりデジタル写真集も配信中)に行かせていただいたのですが、そこでも、おかしな着ぐるみを来た人たちと走り回っている菜乃花さんの写真がありましたよね。


藤本 あぁ〜、ありました! とにかくね、面白いことをやりたいって気持ちが強いんですよ、僕。頭の中に浮かんだ発想をそのまま写真できたらなと常々思っています。まぁ、基本的に「いいねー!」とノッてくださる編集さんは少ないですけどね(笑)。


――あまりに個性的な作品は、読者を選びますからね。でも、雑誌的には難しくても、個人的に「面白い」と思っている方は多いはずです。


藤本 そうなんですよねぇ。と分かってはいるものの、なるべく提案の場があれば言い続けるようにしていますよ(笑)。毎回「それ、自分の作品撮りでやってくださいよ」と言われながらも、懲りずにね! つい最近、週プレで食パンを使った撮影をやらせてもらえた時は嬉しかったなぁ。僕、密かにずっと「食パングラビア、やりたいです!」と言い続けていたんですよ。


――食パン! また新しいワードが出てきましたね。


藤本 あのー、食パンのスゴさ、分かります? ノーマルだと白いのに、焼き時間によって色が変わっていくんです。耳も取れるし、穴も開けられる。女の子が咥えてもかわいいし、挟まれてもかわいい。ね? 食パンって、いろんな表情を持っているんです。この要素は、絶対にグラビアで活かした方が良いですよね。


――食パンへの熱量が大きすぎます(笑)。……あっ、もしかして週プレで撮影された食パンを使ったグラビアって、アイドルグループ「てぃあむ」柳川みあさんの『漫画みたいな恋がしたい!』ですか?


柳川みあ『漫画みたいな恋がしたい!』


藤本 そうそう! それです。この撮り下ろしで食パンを使ったグラビアを実現できたのは、この子が所属しているアイドルグループのコンセプトが“漫画から飛び出してきた魔法少女アイドル”だったから。少女漫画の定番に、食パンを咥えた女の子が「遅刻、遅刻〜!」って走っている描写があるじゃないですか。そのイメージのおかげです。もっと欲を言うと、いつかは、全部のページで食パンが使われているグラビアを撮りたいですけどね。


――あはは。ところで、そういった自由な発想のインスピレーション源はどこにあるんでしょう?


藤本 何だろう……。映画とか、アーティストさんのミュージックビデオですかね? 映像が発端になっている部分は、大いにあると思います。そこで面白い世界観をインプットさせておくことで、撮影中にふと、面白いアイデアに繋がっていくというか。そういえば、先ほどお話しした、僕にターニングポイントを与えてくれた編集さんに、後々言われたことがあるんです。「藤本さんは、水みたいなものだから」と。現場に行って流すと、そこにあるくぼみに応じて形が変わるし、くぼみを無くせば自由に流れていく。うん、自分で言うもの何ですが、現場の空気感や流れに応じて、自由に発想していくのが得意なのかもしれませんね。


――水、ですか。面白い表現ですね。何かと混ざれば色も変わるし。


藤本 写真を撮り続けるうえで「僕はこうだ」という縛りは作りたくないですし、“水”の例えは、あながち間違っていない気がします。なるべく自由に、なるべく思うがままにが理想ですね。もちろん、それが許される現場であればの話ですが。



藤本和典 編・最終話は11/25(金)公開予定! お気に入りのデジタル写真集と今後の展望を語る「この間、1年前と同じ発想を提案している自分に気付いて……」


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藤本和典プロフィール

ふじもと・かずのり ●カメラマン。1977年生まれ、福岡県出身。

趣味=キャンプ、ゴルフ、バイク、スケボー、スキー

カメラマン・渡辺達生氏に師事し、2008年に独立。

主な作品は、手島優『Thank Yuu!』、広瀬すず『SUZU』、土屋太鳳『初戀。』、星野みなみ『いたずら』、北野日奈子『空気の色』『希望の方角』、飯田里穂『永遠と一瞬』、山崎真実『ひととき』、横山結衣『未熟な光』、阿部夢梨『ゆめり日和』、長尾しおり『少女以上、大人未満。』、あまつまりな『See-through』、東村芽依『見つけた』、高梨瑞樹『はだかんぼ。』、和泉芳怜『可憐な芳怜』、森みはる『Lastart』など。2021年には、tokyoarts galleryにて、グラビアアイドル・菜乃花とともに写真展「かわいいじゃない。」を開催。他、各誌で男性ポートレートやカレンダーなども手掛ける。

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