『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』田口まき 編 第一話「ルーツを知る」 熊本のカルチャー女子たちと過ごした青春「写真を撮っているだけで、いろんな出会いがあると思った」

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第16回目のゲストは、女の子のポートレートを中心に活動している写真家の田口まき氏。週プレでは、奥山かずさ『癒やし系ボディに仕上げました。』やゆきぽよ(木村有希)『サバイバル~ゆきぽよ的ギャルキャンプ~』などの撮影を担当。女の子への愛溢れるルーツや、グラビアへの向き合い方について話を聞いた。


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――今回は、田口さんと縁の深いオーナーさんのご厚意により、東京・恵比寿のバー「はなゆき」で取材をさせていただくことになりました。シャンパンまでご馳走いただいちゃって……。ありがとうございます!


田口 せっかくだもんね。カンパーイ!


――田口さんといえば、フレンドリーで明るいイメージが強いです。インタビューでは、カメラマンになるまでのルーツからお聞きしたいのですが、子どもの頃からオープンな性格だったんですか?


田口 どうなんだろう。両親が理想を持って育ててくれていたので、当時はまだもの珍しかったオーガニック食品にこだわったり、テレビは見ちゃいけなかったり、周りの同級生に比べて制限されていたことが多かったんです。お父さんが絵本の出版社で働いている人だったから、小さい頃は、絵本や児童文学ばかり読んでいました。家から演劇の本を持ち出して、台本に沿って近所の子たちに配役して、みたいな遊びはやっていたけど(笑)。小学校高学年になるまで、ひとりも芸能人を知らなかったですね。


――そうだったんですね。テレビが見られないと周りの話にもついていけないですし、結構ストレスだったんじゃないですか?


田口 それこそ私が小学生だった頃は、『スーパーマリオ』や『星のカービィ』などのテレビゲームが流行っていたんですね。友達の家に遊びに行くと、一緒になってやらせてもらうんですけど、コントローラーもろくに握ったことのない私は、すぐステージから落ちてゲームオーバーに。そういう体験が積み重なっていくうちに、だんだん、自分の家と他の子の家は違うんだなってことに気付いていきました。中学、高校にあがるにつれ、少しずつテレビドラマを見させてもらえるようにはなったものの、やっぱり、そういった家庭環境に対して反抗したくなる時期もありましたね(笑)。それが今の活動に繋がる大元になっていると思うと、決してネガティブな話じゃないんですけどね。


――まぁ、多かれ少なかれ反抗期はありますよね。時期でいうと、中学生の頃でしょうか?


田口 中学2年生くらいじゃないかな? 順を追ってお話しすると、私、中学校では吹奏楽部に入っていたんですよ。子どもの頃からバイオリンやフルートを習わせてもらっていたし、クラシックには馴染みがあって。担当パートはフルート。私が通っていた中学校の吹奏楽部は、地元の熊本ではそこそこ強い方だったし、何年もフルートを習ってきたプライドもあったから、特に1年生のうちは、めちゃくちゃ真面目に練習していましたよ。「いつかは“ピッコロの田口”として、世界のオーケストラに呼ばれる奏者になるぞ」って。


――“ピッコロの田口”?


田口 吹奏楽の木管楽器の中で最高音域を担当するピッコロフルートを吹けるのは、フルートパート内でいちばん上手だと認められた人だけ。「ピッコロといえば田口だよね」と、誰もが認めるくらいの奏者になりたかったんですよね。ただ、中学2年生の頃に初めての彼氏ができたんです。しかも、帰宅部のちょい悪めの先輩(笑)。うちの吹奏楽部には、練習のモチベを下げないためにも、それなりに大会で成績を残しているバスケ部かバレー部の男の子としか付き合っちゃいけないって暗黙のルールがあったから、バレた時、先輩たちに屋上に呼び出されて、ちょーキレられちゃって(笑)。


――な、何だか学園ドラマみたいな展開……!


田口 理不尽にキレられたら、私もカチンとくるじゃない? それで、勢いあまって近くにあったパイプ椅子をガンッと蹴ったら、そのままパイプ椅子が一階にまで落ちちゃって、下の花壇がめちゃくちゃになっちゃって。校内がざわつくくらいの大問題になってしまったんですよね。ちょうどNHK主催のコンクールが控えていた時期だったのに、私は出場停止処分。結局、そのまま部活も辞めてしまいました。反抗期の到来はこの辺りですね。


――今の田口さんからは考えられない反抗ぶり(笑)。部活動を辞められて、その後は?


田口 自分の知らない世界に興味を持って、楽しいことをいろいろやり始めました。お遊びでバンドを組んでみたり、映画を観るのも好きだったから、お父さんのハンディカムを借りて、友達をモデルにイメージ映像みたいなものを撮ったり。中3の終わり頃には、地元の古着屋さんでアルバイトを始めました。ここで、写真が好きになったんです。


――反抗期は、田口さんの世界が一気に広がるきっかけになったんですね。古着屋さんでのアルバイトから写真が好きになった、というのは?


田口 古着屋の先輩たちから、当時流行っていたファッション誌やおしゃれなファッションスナップをたくさん見せてもらったんです。そこでエレイン・コンスタンティンという写真家の存在を知って、彼女の写真に強く惹かれて。ただイメージとしてデコレーションされた写真ではなく、ポートレートとしてリアルなティーンエイジャーが登場するファッション写真でした。田舎に住む素朴な少女たちに、ハイファッションをスタイリングして、坂の上から走ってくるところを日中シンクロで撮る……みたいな。そこに写っている少女たちへのシンパシーもあったし、スゴく新鮮に映りましたね。私も、ファッション誌の見よう見真似で、お店に遊びに来てくれるかわいい女の子の写真を趣味で撮っていたけど、独自の演出が加わるだけで、これほどまでにスペシャルな作品に昇華されるんだと、写真表現の面白さを感じました。


――そうして、ファッションへの興味から写真に繋がったと。とはいえ、モデルとして撮られたいではなく、撮る側にいかれたのが面白いですよね。


田口 周りには、私よりファッション好きな子がたくさんいましたからね。それに、子どもの頃にたくさん本を読んだことが影響しているのか、根本的には、ファッションよりもドキュメタリーが好きな人間なんですよ、私。見ていたのはファッションの写真でも、知らず知らずのうちに惹かれていたのは、そこに写っている女の子のリアルとか、何とも言えない魅力とか、そんなところだったと思う。って、当時はもっと漠然とした興味だったけどね。


――実際、おしゃれな格好をした女の子の写真を撮るのは楽しかったんですか?


田口 もちろん! といっても、遊び感覚だけどね。でも、そうして好きで写真を撮り続けていたら「〇〇校に、〇〇ちゃんってかわいい子がいるらしいよ」って情報がどんどん入ってくるようになったんです。気付いたら、ファッションやメイク、写真、音楽など、熊本に住んでいるカルチャー好きな女の子が集まるチームができていました。みんなでおしゃれをして、写真を撮って。そうして作ったZINEを近所のレコード屋さんに置いてもらうと、それを見た女の子たちがまた集まってきて、どんどん規模が大きくなっていったんですよね。今みたいにSNSがない時代。行けば共通の趣味を持った誰かがいる場所を見つけられたのは、とても幸せなことでした。本当に、スゴく楽しかったですよ。


――素敵な青春ですね。ちなみに、当時グラビアに興味は?


田口 ちょうど高校生の頃、地元のコンビニで『月刊 篠原涼子』を見つけたんです。メイクでピンク色に染まった目元が腫れているように見えて、表紙だけでもかなりインパクトがあったのを覚えています。そのまま買うのは恥ずかしかったから、2冊の雑誌に挟んでレジに持っていく、いわゆる“エロ本買い”をしました(笑)。そこからですね。『月刊』シリーズを集め出すと同時に、週プレも読むようになりました。


――ドキュメンタリーな瞬間に演出を加え、女の子を魅力的に写す。グラビアの表現方法は、まさに田口さんが興味を持たれた写真そのものだと感じます。


田口 そうですね。私も、初めてちゃんとグラビアを見た時、女の子を主体としたカッコいい表現だと思いました。まぁ当時の感覚的には、写真としてじゃなく、単純にかわいい女の子が好きで見ていたんですけどね(笑)。


――高校卒業後はどのような進路に?


田口 上京して、写真の専門学校に進学しました。もっと写真について知りたい、技術的なことを勉強したいと思ってはいたものの、進学の主な動機は、古着屋の先輩が通っていて楽しそうだったからで(笑)。カメラマンになろうなんて発想は、まだ全くなかったですね。ただ、カメラを持っているだけで、さらに世界が広がっていく期待はどこかにありました。「撮らせてよ」と声をかけることで人との関係が繋がったり、面白い表現に挑戦できたり。その先に何があるかまでは考えていなかったけど、絶対に楽しい毎日が待っているはずだって、ワクワクしていましたね。


田口まき 編・第二話は12/9(金)公開予定! プロの写真家を志していたはずが、まさかの〇〇の道に!? 「写真家になりたいって夢を完全に忘れていました(笑)」


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田口まきプロフィール

たぐち・まき ●カメラマン。1981年生まれ、熊本県出身。

趣味=旅行

写真家・宮原夢画氏のアシスタントを経験後、2007年より活動。

主な作品は、佐々木もよこ『Juicy HIPs』、植野有砂『#ALISA』、三品瑠香『EPHEMERAL』、大場美奈『答え合わせ』、我妻ゆりか『わがままゆりかの天使な笑顔』、個展にあわせて出版された『Beautiful Escape』『SEACRET GARDEN /0』など。女の子のポートレートを中心に、グラビア以外にも、カルチャー誌やファッション誌、広告なども手がけるほか、ファッションレーベル「HAVA」の立ち上げに携わるなど、その活動は多岐にわたる。

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