『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』田口まき 編 第三話「こだわりを知る」 男性読者に受けるグラビアへの挑戦「“女の子写真”じゃ意味がない」

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第16回目のゲストは、女の子のポートレートを中心に活動している写真家の田口まき氏。週プレでは、奥山かずさ『癒やし系ボディに仕上げました。』やゆきぽよ(木村有希)『サバイバル~ゆきぽよ的ギャルキャンプ~』などの撮影を担当。女の子への愛溢れるルーツや、グラビアへの向き合い方について話を聞いた。


田口まき作品のデジタル写真集一覧はコチラから!



——一時的に結婚生活を送られた後、再びカメラマンの夢を追い始めた田口さん。アシスタント卒業後は、制作会社の立ち上げにも携われたそうですが、カメラマンのお仕事でいうと?


田口 カルチャー誌やファッション誌などを中心に、いろんな媒体で撮らせてもらっていました。ちなみに、中森明夫さんって分かります?


——80年代より活躍されている、「おたく」という呼称を命名したとされるアイドル評論家の方ですよね。


田口 そうそう。私、昔から中森さんのテキストが大好きなんです。中森さんが書いた女の子にまつわる文章を読んでいると、女性の魅力が立体的に感じられるというか。それでお会いしてみたくて、中森さんの本を出版している編集部に手紙を送ったら返事が来たんですね。そしたら今度は中森さんが、私が高校生の頃から愛読していた『月刊』シリーズ(一話参照)の編集長だった方を紹介してくださったんですよ。


——スゴい展開……! 中森さんにお会いするために手紙を送られたのもなかなかの行動力ですけど、そこからまたさらに憧れの人たちと繋がっていかれたとは。


田口 そういった人たちと関わるようになって、ある時、新境地のグラビアに挑戦するためのフリーペーパー『GO-GAI(ゴーガイ)』で、グラビアアイドルの森下悠里ちゃんを撮影させてもらうことになったんです。商業誌ではできないようなアーティスティックなグラビアへの挑戦がコンセプトになっていて、私にとっては、学生時代に大好きだったクリエイターの方たちと作った思い出深い写真集でした。しばらくファッション系カメラマンのアシスタントについていましたし、久々にグラビアと再会した気持ちで撮影に臨めた感覚がありましたね。それに、版元から依頼を受けて制作する写真集と違って、完全に自分たち発信の作品だったから、それを見た人たちが私にも興味を持ってくれた。そこからまたいろんな人たちと繋がれて、自分たちの力だけでもモノづくりができるじゃんって、どんどん創作意欲が湧いてきたんです。


——着々と世界が広がっていますね。お話を聞いているだけでもワクワクしてきます。


田口 やっぱり、自分たちで表現を考えてモノづくりするのは楽しいですよね。ある時期は、『MADE IN GIRL(略称・MIG/ミグ)』という、女の子たちのリアルを発信するフリーメディアを立ち上げて、そこで写真を撮っていました。『MIG』の活動では、女の子たちが持っている独自の世界観や生き方紹介を軸に、パルコやラフォーレなどの商業施設にポップアップショップを出したり、インディペンデントな若手ファッションブランドの洋服と一緒にアーティストの作品やZINEを置いたり、他にもさまざまなイベントに参加させてもらったりしていましたね。


——何だか、一話でお聞きした話と似ている気がします。高校時代、地元の熊本でカルチャー好きの女の子たちが集まり、好きに写真を撮っていたという。


田口 そうだね。本当に、あの頃の青春がそのまま写真家としての活動になったみたいでスゴく楽しかったですよ。『MIG』が終わった後も、メンズファッション誌『EYESCREAM』(トゥーヴァージンズ)で3年ほど、モード誌『Numero TOKYO』で2年半ほど、面白い女の子を紹介する連載を続けていました。


——現在に繋がるグラビアのお仕事はいつ頃から?


田口 一通りそういった女の子を発信する活動を続けた後だったかな? 20代後半から30代前半くらいだったと思います。とある芸能事務所の方が「君たち気が合いそうだから」って、週プレの女性編集の方を紹介してくださったんですよね。年もひとつ違いで、確かに話も弾んで。私が本格的に商業誌でグラビアを撮るようになったのは、間違いなくその編集さんがきっかけです。2013年に週プレから出させてもらった佐々木もよこちゃんの写真集『Juicy HIPs』も、その編集さんと一緒に作ったんですよね。


佐々木もよこ写真集『Juicy HIPs』表紙


——ひょんな紹介がきっかけだったんですね。やはり商業誌のグラビアは、これまで田口さんが撮影されてきたフリーのグラビアと違いましたか?


田口 全然違いましたね。それこそ週プレのメイン読者は男性。これまでは主観的に女性性のある写真なども撮っていられたけど、週プレで撮るんだったら、女性の私が撮るにしても、男性好みのグラビアに仕上げないと、誌面に出てくれる女の子にもプラスにならないんですよね。男性の好みも人によって違うから正解はないものの、お世話になっていた編集さんも女性の方だったし、最初のうちは、「男性に受けなきゃ意味がないよね」って試行錯誤しながら撮影していました。


——実際、グラビアで活躍されているカメラマンさんも、ほとんどが男性の方ですもんね。


田口 正直、グラビアを撮るとき用に男性風の名義を作ろうかと考えたこともあります。いちいち現場で触れられるのも面倒だと思って辞めましたけど(笑)。ただ、「女の子写真」とか「女性の感性で撮られた写真」みたいな言われ方は、グラビアにおいては良い評価じゃないと受け止めていました。今となっては、男性の好みに寄せなくても、あらゆるイメージを表現できるのがグラビアの醍醐味だと思えますけど。


——当時、男性好みのグラビアを撮るために意識されていたことはありますか?


田口 周りの男性に、女性のグッとくるポイントを細かく聞いたり、男性好みに撮られた写真をたくさん見たり。かつて『GO-GAI』でお世話になった森下悠里ちゃんの写真集『流出』(ワニブックス/2008年)での経験も、男性目線の写真を意識した思い出の1つです。『月刊』シリーズのプロデューサーであるイワタさんが以前から撮り続けていた悠里ちゃんの写真に、イワタさんと私での撮り下ろしを組み合わせて構成された一冊なんですけど、私の手を悠里ちゃんの胸や唇に触れながらコンデジで接写するなど、まるで悠里ちゃんを強引に抱いているかのような撮影でした。


——(実際に写真集を見て)おぉ……、かなり緊迫感がありますね。生々しくて、ドキドキしますよ。とはいえ、被写体に触れての撮影は男性カメラマンにはできない撮影方法です。


田口 悠里ちゃんもプロだからね。事前に撮影の意図を話し合い、すぐ理解してスイッチを入れてくれました。正直、私が悠里ちゃんに引っ張られた部分もあります。そんな演出ができる現場はなかなかないですが、他の仕事では出来ない様なタブーも強さになる面白さを感じました。実際、半日や1日ちょっとで女の子の中に踏み込んでいくのは相当難しいです。でも、女性、男性という区別を越えて、見た人をドキッとさせる写真が撮れるはずだっていう反骨心みたいなものはずっとあって。まだまだ挑戦したい表現があるという意味では、今いちばん、グラビアが楽しいかもしれませんね。


田口まき 編・最終話は12/23(金)公開予定! お気に入りのグラビアに見る、ドキュメンタリー性を語る。「どのタイミングで、どんな状態の女の子を撮るか。その巡り合わせがグラビアを撮る面白さですよね」


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田口まきプロフィール

たぐち・まき ●カメラマン。1981年生まれ、熊本県出身。

趣味=旅行

写真家・宮原夢画氏のアシスタントを経験後、2007年より活動。

主な作品は、佐々木もよこ『Juicy HIPs』、植野有砂『#ALISA』、三品瑠香『EPHEMERAL』、大場美奈『答え合わせ』、我妻ゆりか『わがままゆりかの天使な笑顔』、個展にあわせて出版された『Beautiful Escape』『SEACRET GARDEN /0』など。女の子のポートレートを中心に、グラビア以外にも、カルチャー誌やファッション誌、広告なども手がけるほか、ファッションレーベル「HAVA」の立ち上げに携わるなど、その活動は多岐にわたる。

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