『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』西田幸樹 編 第三話「こだわりを知る」 女の子には最大の敬意を払いつつ、読者の“昔好きだった女の子”を思い出せるグラビアを撮りたい。

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第17回目のゲストは、80年代後半よりグラビアの第一線で活躍を続ける西田幸樹氏が登場。週プレでは、2022年に14年ぶりの再登場を果たした女優・平田裕香(デジタル写真集『KENAGE』)などを撮影している。10代のアイドルから、ヌードグラビアまで。美しい光で女性を撮り続ける彼なりのロジックを聞いた。


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——西田さんといえば、ワニブックスから刊行されているハロー!プロジェクトのアイドル写真集や、『週刊ポスト』で連載されていた「なをん。」シリーズ(プロフィールを明かしていない謎の美女を撮り下ろす企画連載)の印象も強いです。


西田 主に英知出版系の雑誌や『スコラ』で撮らせてもらった後は、『少年マガジン』(講談社)や『ヤングサンデー』(小学館/現在は休刊)でお世話になっていた時期もありました。90年代終わりから2000年代以降は、ありがたいことに、ワニブックスでハロプロの写真集を継続的に撮らせてもらっていますね。元℃-uteの鈴木愛理ちゃんなんて、高校入学から大学卒業(2010年から2017年)までの7年間、ほぼ毎年のように撮らせてもらっていたんですよ。『ポスト』で「なをん。」シリーズを撮るようになったのは、2011年、本誌にヌードが初掲載されたYURIちゃんが始まりでしたね。


——名前、年齢、出身地、職業といった素性が全く明かされていない女性のヌードは、「見てしまっていいのだろうか」という背徳感が生まれると同時に、素性が分からないからこそ、先入観なく写真を堪能できる面白さがありました。いったい彼女はどんな女性なのか。プロフィールではなく、写真を見るたびに想像を膨らませられるのが新鮮で。


西田 僕も新鮮でしたよ。YURIちゃんは、本当に普通の女性で、写真を撮られることに慣れているわけでもなくて。それなのに『ポスト』では、2年弱で計30回もグラビアが掲載されたんです。読者からの反響も多かったですし、これまで関わらせてもらったグラビアの中で、最も手応えを感じた企画だったと言っても過言ではないです。


——2013年には、2年にわたり撮りためた写真をまとめた『YURI 愛のアルバム』(小学館)が、2019年には、謎のまま姿を消した彼女の写真集第二弾として『YURI もうひとつのアルバム』が発売。率直に、YURIさんを撮る楽しさはどんなところにありましたか?


西田 見た目は“綺麗なお姉さん”でも、笑顔はスゴく子どもっぽいというか。いつも僕が言うつまらないギャグにも、無邪気に笑ってくれるんです。完全なる素人さんなので、適宜リードしてあげながら撮っていたものの、自然と移り変わる無垢な表情を追うのは、とても楽しかったですよ。


——ちなみに、アイドル写真集とヌードは、同じグラビアでも表現が異なりますよね。撮られる際の意識に、何か違いはありますか?


西田 僕の意識だけで言えば、特に違いはありません。女性をかわいく、素敵に撮ることに変わりはないというか。女優さんやアイドルだったら、普段はテレビでお芝居をしたり、ステージに立ったりする中で水着になる仕事があるわけだし、セクシー女優さんだったら、肌を見せた表現が本職だから、グラビアの撮影にも馴染みやすいところがあるだろうし。要は、その方が得意とするパフォーマンスが異なるだけなんですよね。それを加味したうえで、グラビアの世界観を通してその方らしい魅力が伝わるよう尽力するだけ。撮る側の僕の意識は、基本的にどの現場も同じですよ。グラビアに限らず写真を撮るうえで大事なのは、カメラの前に立ってくれる方の人格に最大限の敬意を払うことだと考えています。それは、老若男女にかかわらず、です。


——な、なるほど。


西田 もちろんヌードの現場では、ただ美しいだけでなく、読者の方に喜んでもらえるような色気の見せ方にも注力しています。特に、最近撮らせてもらっている『週刊ポスト』は、4〜50代の男性がターゲット層ですから。彼らの票が集められなければ、出てくれた女の子にとってもプラスにならない。写真は、“誰かに何かを伝えるために撮るもの”とも言えるわけだから、強いて異なる意識があるとすれば、「誰に届ける写真なのか」というところでしょうかね。ただ、やっぱり写る方への敬意がない写真は、いくら色気や迫力があっても、敬意のなさが読者の方にも伝わるだろうし、引かれてしまうと思います。きっとグラビアが好きな男性読者の多くは、昔付き合っていた彼女や、忘れられない好きだった女の子に、その子を重ねて見ているはずなので。好きな人が蔑(ないがし)ろにされていたら、誰だって腹が立ちますよね。


——確かに、写真には、現場の雰囲気やカメラマン・被写体の心情など、直接目に見えないものもちゃんと写っていますよね。そういうのは、感覚的に伝わる気がします。


西田 それでいてグラビアは、目に見える情報から「この人は、こういう人かもしれない」というイメージを、ひとつずつ積み重ねる作業を経て楽しむものでもあると思うんですよ。分かりやすく例えると、紫色のボディコンを着ていたら「大人の女性」だし、肩紐の太いサロペットを着ていたら「少女」だと、反射的にイメージが芽生えるじゃないですか。この時間にこの場所に立っている女性は、どういう女性なのか。この衣装にこの髪型をしている女性は、普段何をしている女性なのか。いちいち言語化される方はいないでしょうけど、そのイメージが過去に好きだった女の子とリンクした瞬間、頭の中で一気にドラマが広がっていく。それがグラビアの面白さじゃないですかね。


——もっと普遍的な観点でいえば、私は、光に共感しているところがあるように思います。朝の光に、夕方の光。時間帯や季節によって変化する光のニュアンスに、思い出を重ねながら、その光の中で写っている女の子に思いを馳せるといいますか。そうすると、お会いしたことはないはずの人、知らない景色でさえも、不思議と懐かしい感じがするんですよね。


西田 そうですよね。夕日の逆光を見ると、ふと、部活帰りに見た稲穂の景色を思い出す……、みたいな。細かいシチュエーションは人それぞれだと思いますが、その光の中で、女の子の横顔が見たいのか、伏し目がちな表情が見たいのか、あるいは、空を仰いで笑っている姿が見たいのか、ってところで、読者の方に感じてもらいたいイメージに近づけていく。グラビアを撮るって、そういうことなんじゃないかと思います。


——やはり、常にそういったイメージを計算しながら撮影されているんでしょうか。


西田 はい。そのために、編集さんやスタイリストさんとの打ち合わせがあるんですから。「こう見せたい」というイメージを、スタッフみんなで持っておくことが大事です。天候が違ったり、想像していた光に出会えなかったり、現場に行くまで分からないことも多々ありますが、そのときはもう、その場でできる最善を尽くすほかないですよね。まぁ、僕の場合、95%の確率で天気に恵まれるんですけどね(笑)。


——とんでもない晴れ男ですね!


西田 あはは。よく仕事をするスタッフさんたちには、気味悪がられていますけどね。「西田さんの現場、本当に雨降りませんね!?」って。まぁ、いろいろ難しい話をしてしまいましたが、簡潔にいえば、「グラビアに挑戦して良かった」「西田さんに撮ってもらえて良かった」と思ってもらえるような結果を残したいってことです。その子自身の勇気に繋がるような写真、その子のファンや仕事が増えるきっかけになる写真を撮りたい。その気持ちは、今も昔も変わっていません。


——それでいうと、2021年より始動した、セクシー女優事務所「エイトマン」の15周年を記念した「8woman(エイトウーマン)」プロジェクトは素晴らしかったですよね。8名の女優さんが集結し、美しき裸身を凛々しく披露。一糸まとわずカメラの前でポーズを決める彼女たちのプロフェッショナルに、とても感銘を受けましたよ。2年連続、写真集とドキュメンタリー写真集(女優さんの控え室から西田氏が撮影する様子に写真家・塩原洋氏が密着した写真集)が発売されただけでなく、写真展まで開催されて。


西田 ありがとうございます。セクシー女優は誰もが理解できる職業ではないかもしれませんが、それでも彼女たちには、プロとしてのパフォーマンスに自信を持って、堂々と世界で活躍してほしい。「8woman(エイトウーマン)」は、そんな願いをもとに、「エイトマン」の社長さんが発案した大きな取り組みなんですよね。本業の作品を買うことに抵抗のある彼女たちの家族や友達でも、ギャラリーで開かれた写真展なら、彼女たちの活躍に触れやすい。それに、それなりのお値段がする額装された写真を買ってくださる根強いファンの方もいる。僕自身も、独立当初からセクシー女優の方たちをたくさん撮らせてもらっているので、彼女たちにはそれなりの思い入れがあります。まだまだ偏見の多い業界とはいえ、近い未来、彼女たちの表現が正当に評価されるようになってほしいですね。


西田幸樹 編・最終話は1/27(金)公開予定! 今後の目標はセブンサミッツ!?「58歳でエベレストに登頂しました。危険があると分かっていても、山登りは辞められません(笑)」


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西田幸樹プロフィール

にしだ・こうき ●カメラマン。1958年生まれ、熊本県出身。

趣味=趣味 山行、街道巡り、工作

写真家・横木安良夫氏のアシスタントを経て、1986年に独立。

主な作品は、南粧子『マーマレイドの午後』、前田敦子『前田敦子』、葵つかさ『葵つかさ』、鈴木優香『だまされてみる?』など。鈴木愛理を筆頭に、真野恵里菜、鞘師里保、小田さくら、牧野真莉愛、山﨑夢羽など、ハロー!プロジェクトの写真集も多く手掛けるほか、2011年ごろから『週刊ポスト』では、素性を一切明かしていない美女を取り下ろす「謎の美女」シリーズを撮影。YURI『愛のアルバム』、祥子『愛にゆく人』などの写真集をリリースした。また2021年にはAV事務所・エイトマンの15周年記念企画「8woman」にて8人のモデルを撮影。東京渋谷にあるギャラリー・ルデコで写真展を開催した。翌年にも同様の写真展を開催し話題となった。

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