『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』前康輔 編 第三話「こだわりを知る」 希望を持って生きるには、薄目で世界を見るくらいがちょうどいい。

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第11回目のゲストは、8月2日に発売予定の劇団4ドル50セント・安倍乙のファースト写真集『吐息の温度』を担当している前康輔氏。乃木坂46の写真集をはじめ、ここ数年でグラビアのオファーが急増中。“グラビア初心者カメラマン”の彼が語る、グラビアの魅力とは。


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――カルチャー誌などからカメラマンのキャリアをスタートさせた前さん。グラビアを撮り始めた最初のきっかけは何だったんですか?


 知り合いの編集者の方が『EX大衆』(双葉社)の編集部に移られたときに、「前さん、アイドル撮ってみない?」と誘ってくださったのが始まりだったと思います。正直、アイドルには詳しくなかったし、自分が良いと思う写真で通用するのか心配もあったんですけど、そこで初めて、乃木坂46の渡辺みり愛ちゃん(現在は卒業)を撮らせてもらったんですね。1日かけて遠出をして、コミュニケーションをとりながら気持ちの変化を追いかけて。「こんなにじっくり時間をかけて、被写体と向き合わせてもらえるんだ」と、とても楽しかったのを覚えています。


――商業写真のなかでも、グラビアは特に自由度の高い現場だと耳にしますし、実際、時間をかけて被写体の女の子と向き合えるのは、グラビアの醍醐味ですよね。


 極端な話、グラビア以外の媒体だと、表紙と巻頭数ページ分を5分で撮る場合もありますからね(笑)。ただ、撮影時間の長さ以上にありがたいのは、撮られる側の「良い写真を撮ってもらおう」という気持ちの強さですよ。女の子たちにとってグラビアは、自分を世間に知ってもらうため、さらなる人気を得るためのチャンスでもある。みんな、ただ撮られるだけでなく、悩んだり、迷ったり、自分の魅力を最大限に届けようと一生懸命です。そんな子たちを、いろんなロケーションで、たっぷり時間をかけて撮ることができるんです。これほど撮影に集中できる条件が揃った現場は、なかなかないですよ。


――確かに。グラビアは、前話でお話しされていた「自分が良いと思う写真を撮る」意識が最も働きやすい環境と言えそうですね。


 本当にそう思います。それからきっかけでいうと、与田ちゃんの写真集(乃木坂46・与田祐希のファースト写真集『日向の温度』/幻冬舎)を撮らせてもらったことも大きかったですね。当時まだグループに加入して間もない与田ちゃんがいきなり写真集を発売するという注目度も相まって、多くのグラビア業界の方々に僕の写真を見てもらえたと思っているので。とはいえ『日向の温度』は、僕にとって2冊目のタレント写真集。1冊目は俳優の田中圭くんの写真集『R』(ぴあMOOK)だったので、女性の写真集を手がけるのは与田ちゃんが初めてだったんです。しかも、水着の撮影に関しては初心者も同然。「大丈夫?撮れてる?」なんて言いながら、手探りで撮影していましたね(笑)。


――与田さんの写真集が発売された約1年後には、週プレ編集部から刊行された欅坂46の写真集『21人の未完成』(欅坂46の一期生21名全員参加の写真集で、それぞれ21名のカメラマンによって撮影されている。前氏は「鈴本美愉×前康輔『孤高』」の撮影を担当した。)にも参加されましたよね。


 こう振り返ると、初めのうちはアイドル系のグラビアが多いですね。仕事の割合的には、まだそこまでグラビアを多く撮っていたわけではないですけど。アイドル以外だったら、週プレで撮影させてもらった林田岬優ちゃんのグラビア(デジタル写真集『好きだから』)が最初だったかな?


林田岬優『好きだから』より


――林田さんは、モデル・女優業を中心に活動している女性ですね。頻繁にグラビアに出られる方ではないですが、『好きだから』は、衣装やロケ地など、林田さんの完全セルフプロデュースによって構成されたグラビアだったとか。


 岬優ちゃんとは、ファッション誌の撮影で何度かご一緒したことがあったんですよ。その関係もあって、僕に撮影のオファーが来たんだと思います。この仕上がりが良かったのか、だんだん、週プレ以外にもさまざまなグラビア誌に呼んでいただけるようになって。気付いたら、年々グラビアを撮る機会が増えていましたね。今となっては、仕事の大部分をグラビアが占めています。40歳になる手前で、縁あって新しいジャンルのお仕事ができたこと、そのジャンルが最高に楽しい現場だったことは、カメラマンとしてとても幸せな巡り合わせでした。何せグラビアは、今まで培ってきた“写真の総合力”が試される場でもありますからね。 


――写真の総合力、というと?


 ひと口に“良い写真”と言ってもいろいろあるじゃないですか。ライティングの美しさ、ドキュメンタリー的な着眼点の鋭さ、被写体の表情を引き出す力、女性をセクシーに切り取る感性……。ジャンルに応じて、カメラマンに求められる技術は異なります。僕よりライティングが上手いカメラマンや、ドキュメンタリー性に秀でたカメラマンなんて、この世にいくらでもいらっしゃいます。何かひとつでしか勝負できないとしたら、僕は一位になれません。でもグラビアは、その全ての技術を総合的に使える貴重な場なんですよね。逆に、ひとつの技術だけでは難しい。天候や被写体の気持ちなど、現場に行ってみないと分からない状況に応じるには、これまでの経験を活かすしかないですから。 


――なるほど。となると、やはりグラビアの撮影中は、ほかの現場とは違った意識が働くものなんでしょうか?


 いや、グラビアだろうが何だろうが、撮る際の意識は、基本的には変わりません。人も、風景も、料理も、僕が「すてきだな」と思った瞬間を撮るだけです。例えばグラビアでは、胸やお尻などを欲情的に写すことが求められますよね。読者のためにも、そこを撮る意識は大事にしているものの、あえて意識して、グラビアらしさに寄せる必要もないと思っていいて。いわゆる王道を求めるなら、これまで長くグラビアを撮られてきたカメラマンさんが撮る方が絶対いい。せっかく僕が撮るんだったら、グラビア初心者カメラマンの自分らしい部分を出していかないと、意味がないとすら思いますね。


――確かに、前さんの写真って特徴的ですよね。グラビアでも、グラビア以外の作品でも、光がキラキラしていて、毎回どこか淡い印象を受けますよ。 


 自分で言うのも何ですが、僕、ロマンチストなところがあるんだと思います。常日頃からロマンチックな出来事を求めて生きているわけじゃないですが、写真を撮るときくらいは、この世界にあるロマンチックな部分を掴んでいたいというか。特にここ最近は、ニュースでも辛い話題が多いじゃないですか。そんななかで希望を持って生きていくには、薄目で世界を見るくらいがちょうどいい。むしろ解像度が低ければ低いほど、聴覚や嗅覚など視覚以外の感覚も働きやすくなるし、より自分が見たいように世界を見られる気がしているんです。全部をくっきり見ようとする必要はない。僕の写真を見て「淡い印象」を受けられたのは、そういった僕なりの世界の捉え方が関係しているのかもしれませんね。


――薄目で世界を見る、ですか。今の言葉と前さんの写真を照らしあわせて見ると、ものすごく説得力がありますよ。現実世界のストレスから逃避して、とにかく癒されたい。きっと読者の方も、そんな気持ちで毎週のグラビアを楽しみにしてくださっているはずですし。 


 実際、アイドルの方のグラビアや写真集を撮らせていただくと、ファンの方に感謝されるんですよ。「推しをかわいく撮ってくださってありがとうございます。元気が出ました」って。そればかりか、「推しの写真集を見て、写真が持つ力を強く感じたので、僕も写真を始めました」と、わざわざ遠方から僕の写真展に足を運んでくれた若者もいました。思い返すと、僕も高校生の頃、写真や映画、音楽など、あらゆるカルチャーに救われてきました。メジャーなアーティストや監督ほどの影響力はないにしても、今、それなりに多くの方に見てもらえる場所で写真を撮らせてもらっています。そこで、自分自身はもちろん、僕の写真を見て「この世界も捨てたもんじゃないな」と、僅かでも希望を感じてくださる読者の方がいるのであれば、僕のフィルターを通した世界を写真にして届けることに、少しは意味があるのかなって思いますね。 


前康輔 編・最終話は7/29(金)公開予定!「写真は、見た人が不安や悩みから解放されるものであってほしい」。おすすめのグラビアと写真へのこだわりを語る。


前康輔 作品のデジタル写真集一覧はコチラから!


 


前康輔プロフィール

まえ・こうすけ ●写真家。1979年生まれ、広島県出身。

趣味=写真、パチンコ

2002年ごろより、カルチャー誌やファッション誌、広告などを中心に活動。

主な作品は、田中圭『R』、与田祐希『日向の温度』、樋口日奈『恋人のように』、井上小百合『存在』、弘中綾香『ひろなかのなか』など。三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』、村上龍『空港にて』、吉田修一『春、バーニーズで』(挿絵写真)など、書籍のカバーも担当するほか、自身の写真集『倶会一処(くえいっしょ)』、『New過去』も。

8月2日には劇団4ドル50セント・安倍乙『吐息の温度』が発売!

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