『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』西田幸樹 編 第二話「思い出を知る」 誰よりもかわいく撮れるカメラマンを目指して「先輩方の写真を細かく分析し、研究しました」

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第17回目のゲストは、80年代後半よりグラビアの第一線で活躍を続ける西田幸樹氏が登場。週プレでは、2022年に14年ぶりの再登場を果たした女優・平田裕香(デジタル写真集『KENAGE』)などを撮影している。10代のアイドルから、ヌードグラビアまで。美しい光で女性を撮り続ける彼なりのロジックを聞いた。


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——滑り止めで合格した写真工学科に進学後、偶然に背中を押されるような形でスタジオ勤務を経て、写真家・横木安良夫さんのアシスタントに。その後、実際に西田さんがお仕事を得ていくまでの流れを教えていただけますか?


西田 主に広告やファッションで活躍されていた横木さんですが、僕がアシスタントにつかせてもらっていた頃は、たまたまグラビアの現場が多かったんです。当然、現場で知り合う編集者さんもグラビア系の方がほとんどでした。それで、後々お世話になる英知出版(80年代に大ヒットした『Beppin』や『ビデオボーイ』などで知られる出版社)の方や、イワタさん(90年代後半より『月刊』シリーズをプロデュース)とも知り合ったのですが、横木さんのアシスタントとして、とあるロケに同行したとき、イワタさんから「西田、写真集の仕事やる?」といきなりお声をかけていただいて。


——横木さんに、ではなく、アシスタントである西田さんにお仕事の話が?


西田 はい。さすがに「いや、僕はまだアシスタントだからできないですよ。ましてや写真集なんて……」と断ったつもりが、「横木には、おれが話をつけといたから」って、そのまま版元となる英知出版の専務の方にご挨拶させていただく流れになってしまって。イワタさんも、その専務の方も、僕がどんな写真を撮るかを知らないまま「じゃ、ロケ地はサイパンで。よろしくね」って、急遽、プロのカメラマンとしてモデルさんを撮影することになったんです。横木さんも特に気にかけることなく、「じゃあ、おれのカメラ持っていっていいよ」くらいの感じで。


——みなさん、なかなかノリが軽いですね(笑)。当時は、とりわけ雑誌(グラビア)界が盛り上がっていた頃でしょうし、その時代ならではの勢いなんでしょうか。


西田 80年代後半の話ですからね。グラビア誌だけでも今以上にたくさんありましたし、そういう無茶振りを面白がれるくらいの余裕があったんだと思います。まぁ、僕からすれば、そんなの関係ないですけど(笑)。横木さんの現場を見させてもらってきたとはいっても、実際に自分が撮るのは話が違いますし。


——嬉しいお話のようで、プレッシャーも半端なかったはずです。ちなみに、どなたの写真集ですか?


西田 南粧子(現・池田昌子)ちゃんのファースト写真集『マーマレイドの午後』(英知出版/1987年)です。『すっぴん』(英知出版)のムックとして出た写真集でした。誰がどう撮ってもかわいく写るような方だったから何とか形にできたものの、今見返すと「よくこれでOKしてもらえたな」と思ってしまうほど未熟な写真でお恥ずかしいです。必死さが写真に出ていて、それはそれで味があるようにも感じますけど。


——アシスタント時代に撮影されたとはいえ、実質それが西田さんのデビュー作になると。


西田 そうですね。撮影でギャラをいただいいたのは、この時が初めてでしたから。写真集が発売された頃には、もうアシスタントは卒業していましたよ。24歳から28歳までの約4年間お世話になったのですが、あるとき「次の10月で、アシスタントにつかせてもらってから丸4年になりますね」と言ったら、「あ、もうそんなになるんだ。じゃあ、9月いっぱいまでね」って。かなりドタバタで独立したんです。……こうして振り返ると、横木さんがグラビアのお仕事をやられていなかったら、こんなにも早いうちから写真集を撮らせてもらうこともなかったでしょうし、そもそも今ここにはいないかもしれない。運がいいというか、われながら不思議な人生ですね。


——前回もご自身で「流れに身を任せてここまできたタイプ」だとおっしゃっていましたが、独立して、グラビアを主戦場にカメラマンとして仕事をしていくことに不安はなかったですか?


西田 もちろん、ありましたよ。実は、スタジオを辞めて横木さんのアシスタントにつかせてもらうまでの間に結婚したんですよ。アシスタント時代の4年間はカミさんに食わせてもらっていたも同然。独立後は、何がなんでも仕事を頑張るしかなかったです。それに、先ほど言われていたように、当時は雑誌そのものが盛り上がっていた時代だった分、カメラマンも人手不足で。ありがたいことに、独立後すぐにお仕事をいただけていたんです。


——なるほど。やはり、英知出版系の雑誌が多かったんでしょうか。


西田 そうですね。『Beppin』、『すっぴん』、『ビデオボーイ』……、みなさんご存知でしょうか? 同時に『スコラ』(スコラマガジン/講談社)という雑誌でも、よくお仕事をさせてもらっていました。そうそう、『スコラ』の対抗誌『GORO』(小学館)では、スタジオマン時代に苦楽をともにしたカメラマンの橋本(雅司)くんが撮っていて。ライバル関係とは違うものの、お互いを意識しあいながら頑張っていたのが懐かしいです。


——そういえば西田さんは、もともとグラビア誌はどれくらい見ていらっしゃったんですか? 例えば、男友達の間で回し読みしていた、とか。


西田 うーん。仕事にするまでは、あまり見ていなかった気がします。自ら買って読むほどのお金もなかったし、僕の場合は、回し読みも馴染みがなかったですね。


——そ、そうだったんですね。何というか、ここまでご経歴をお聞きして、西田さんが抱いていたグラビアへの気持ちが気になりまして。独立当初は、目の前のお仕事に何を思いながら取り組んでいらっしゃったんですか?


西田 とにかく必死でしたよ。僕が撮ったグラビアが掲載された雑誌を読んでいると、いろんなカメラマンの名前を目にするわけですよ。英知出版には、社カメ(出版社の正社員として雑誌に掲載される写真を撮る社員カメラマン)もいましたしね。その中で長く生き残るにはどうすればいいかを常に考えていました。その結果、長くグラビアを撮り続けたいのであれば、シンプルに誰よりも女の子をかわいく撮れるカメラマンになろうと。ひとりの女の子のいろんな写真を見て、いちばんかわいく写っていると感じた一枚から「なぜ、それがかわいいと感じたのか」を分析し、自分でもその写りを再現できるよう研究を重ねていました。


——研究といいますと?


西田 当時からグラビアで大活躍されている渡辺達生さんや野村誠一さん、清水清太郎さん、平地勲さん、小澤忠恭さんなどの写真を見漁り、先輩方の技術を自分の写真にも取り入れられないかを考えていたんです。例えば達生さんの写真には、絶対に狙わないと撮れないような写真なのに、さも自然な動きの中で捉えたかのような偶然性があったり、野村さんの写真には、ハイライトからシャドーまでのディティール感によって平面の上に立体感が生まれていたり。そんな特徴を、技術と照らしあわせながら見ていました。その中で、「光は、足し算よりも引き算(光源を増やして光を足すより、光源を見極め不要な光をカットする)の方が美しいかもしれない」と、自分なりの表現を見つけたり……。まぁ、どれもそう簡単に真似できる技術ではなかったですけど。あまり撮られ慣れていない子でも、どんな状況でも、「コレだ!」って思えるかわいい写真が撮れなければ、この世界では生き残れないだろうと、一生懸命でしたね。


——スゴい言語化ですね! というか、写真を見ただけでそこまで分析できるものなんですね。


西田 もともと絵を描くのが好きだったことが関係しているかもしれません(一話参照)。写実画では、シャドーとハイライトの描き方が絵全体を大きく決定づけますから。そこは、写真も同様ですよ。今もそうですけど、光源の場所や大きさを常に意識しつつ、女の子には、いちばん魅力的に写るポイントに立ってもらうようにしています。シャドーとハイライトが生まれる仕組みについては、経験以上に分析が活きるといいますか。それだけで表情の印象がだいぶ変わってしまうので、侮れませんよね。


——そのような分析を繰り返し、必死にお仕事をされてきて、「これでもうやっていけるぞ」と思えた瞬間はあったんですか? 


西田 いやぁ。それは、いまだにないですね。グラビアや写真には、流行り廃りがあるじゃないですか。今の流行りを分析することはできても、長く続けてきた自分の癖を、時代にあわせて矯正するのはかなり難しい。僕の感性も変化しますし、最近は、それこそ若いカメラマンの方の写真を見て「あぁ、いいなぁ」と嫉妬することがあります。発想や写真の見せ方も含めて。「これができたらもう安心」というのは、一生ないと思っています。


西田幸樹 編・第三話は1/20(金)公開予定! アイドル写真集にヌードグラビア。撮影時のこだわりについて語る「いちばん大事なのは写る人への敬意」


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西田幸樹プロフィール

にしだ・こうき ●カメラマン。1958年生まれ、熊本県出身。

趣味=趣味 山行、街道巡り、工作

写真家・横木安良夫氏のアシスタントを経て、1986年に独立。

主な作品は、南粧子『マーマレイドの午後』、前田敦子『前田敦子』、葵つかさ『葵つかさ』、鈴木優香『だまされてみる?』など。鈴木愛理を筆頭に、真野恵里菜、鞘師里保、小田さくら、牧野真莉愛、山﨑夢羽など、ハロー!プロジェクトの写真集も多く手掛けるほか、2011年ごろから『週刊ポスト』では、素性を一切明かしていない美女を取り下ろす「謎の美女」シリーズを撮影。YURI『愛のアルバム』、祥子『愛にゆく人』などの写真集をリリースした。また2021年にはAV事務所・エイトマンの15周年記念企画「8woman」にて8人のモデルを撮影。東京渋谷にあるギャラリー・ルデコで写真展を開催した。翌年にも同様の写真展を開催し話題となった。

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