『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』笠井爾示 編 最終話「おすすめを知る」 グラビアを心から楽しめるようになったのは、ここ4、5年の話。

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第13回目のゲストは、週プレで、初水着グラビアから井桁弘恵を撮り下ろし(デジタル写真集『いげちゃん』など)、CYBERJAPAN DANCERS写真集『BONJOUR!!』などを手掛けた笠井爾示氏が登場。『月刊シリーズ』の思い出のほか、自身の作品集やグラビアに対する素直な気持ちを語ってもらった。


笠井爾示 作品のデジタル写真集一覧はコチラから!



――週プレでグラビアを撮られるようになったのは、いつ頃なんでしょうか?


笠井 2001年辺りですかね?ただ、当時はロッキング・オン・グループでの仕事をたくさんやっていた時期だったから(第三話参照)、そこまで手広くグラビアをやっていたわけではなくて。言ってもここ4、5年の話ですよ。僕がグラビアに積極的になり始めたのは。


――そ、そうなんですか?


笠井 そもそも、グラビアに限った話ではないですけど、仕事でポートレートを撮るとなると、基本的には芸能活動をしている方が被写体になるじゃないですか。すると、良い写真が撮れても、度々、事務所側の判断でNGにされてしまうんです。中には「こんなにいい写真なのに、何がダメなの!?」みたいなカットもあるわけですよ。特にグラビアは、長い時間をかけてじっくり撮れる楽しさがあるのに、どうもそこだけが理解できず、ときにやるせない気持ちになったりもしていて。


――あぁ……、もどかしいですよね。多少のNGは仕方がないとはいえ、良いカットが理由も分からず使えなくなるのは。


笠井 ただ、2017年に『東京の恋人』(玄光社)という写真集を出したのを境に、僕の中にあったモヤモヤが一気に晴れたんです。2011年以降に撮りためた約60名の女性の写真を、約380点にセレクトした分厚い一冊。被写体になってくれた女性の中には、一般人の方もいれば、モデルさんや女優さんなど、事務所に所属されている方も何人かいらっしゃいました。それでも、事務所の写真チェックは一切なし。個人間で納得できていれば、どのカットを使用してもOK。そうして写真集が完成したとき、仕事の現場でNGが出ても、作品の中で僕なりの表現を発揮できるのなら、それで良いのかもと思えました。仕事は仕事だと割り切って向き合えばいい。商業と作品の棲み分けができたおかげで、仕事として、心からグラビアを楽しめるようになったんですよね。


――自分が思う表現は作品でできればいいと。ただ作品だけに集中するのではなく、仕事の方も前向きに捉えられたのは良いことですね。


笠井 僕が撮らせてもらっていた『月刊』シリーズは、写真家としての個性が求められる現場でした。でも、一般的な商業誌のグラビアで求められるのは、いかに被写体を美しく撮るか、ですよね。読者のみなさんが見たいのは、僕の個性やこだわりではなく、女の子の笑顔や色っぽい姿。つまり僕の中で手応えがあっても、読者に受けるとは限らないわけです。以前までの僕だったら、自分らしい作風でグラビアを撮ろうとしていたはず。でも、むしろ今となっては、各誌の読者が求める写真に仕上げる方が相当プロフェッショナルな技術だと思っています。その中で、自然と内包されている個性を見抜いて、「この写真、笠井さんだってすぐに分かったよ」なんて言われると、めちゃくちゃ嬉しいんですけどね(笑)。


――なるほど。撮りたいように撮っていれば、自ずと個性は出ますもんね。ここで、具体的なグラビアの話に移りたいのですが、これまで笠井さんが週プレで撮影されてきた中で、特に思い入れのある女の子はいますか? 


笠井 やっぱり、いげちゃん(井桁弘恵)かなぁ。いちばん最初の打ち合わせから、担当編集さんの力の入れようが、ひしひしと伝わってきたんです。初ロケは沖縄で(デジタル写真集『いげちゃん』に収録)。彼女自身、初めての水着グラビアだったし、未知数な部分も多々あったけど、実際に撮影してみると、かなり良い雰囲気で現場を終えられたんですよね。それは、いげちゃんの頑張りに加えて、周りのスタッフさんが良いリアクションをたくさんくださったおかげでもあって。『月刊』時代は、基本的に女優さんと二人きりでの撮影だったので、周りのスタッフさんたちが一緒になって盛り上がってくれる現場って、今まであまり経験がなかったんです。いげちゃんのグラビアをきっかけに、ますますグラビアが面白く感じられました。そういう意味でも印象に残っていますね。


井桁弘恵『いげちゃん』より


――井桁さんの表情も、初グラビアとは思えないほど自然体でした。


笠井 僕は、現場で生まれる瞬発力を大事にしたいから、現場に入るまで、どんな写真が撮れるかは絶対に考えないようにしているんです。最初はいつも手探り状態。ファインダーを覗きながら「これは違う、これも違う」って、内心てんやわんやしています。まぁ、そうは感じさせないようにしているけど(笑)。でも不思議なことに、どの現場も「これは違う」では終わらないんですよ。カチッとハマるまでの時間は人によりけりですが、最終的には、ちゃんとハマってくれるんです。特にいげちゃんは、ハマるまでの迷う時間が極端に短かった。相性とかコンディションとか、要因はいろいろあるだろうけど、いげちゃんのポテンシャルの高さを感じたのも事実でしたね。


――その、笠井さんの言う“ハマる”とは、どういう基準なんでしょう?


笠井 理想としては、カメラマンと被写体が互いに動く中で撮影を進めたいんです。カッコつけた言い方をすると、阿吽の呼吸で撮っていきたいというか。その動きの感覚がハマるかどうかってことですかね。僕自身も動きをつけるのは、女の子に自然な流れで動いてもらいたいから。カメラを構えたまま「動いてみて」なんて言おうものなら、余計に固まらせてしまいますよね。動きをつけてもらいたいなら、まずは自分から動かないと。そういうスタンスで、いつも撮影を行なっていますよ。


――ちなみに、メンバー10人が一堂に会したCYBERJAPAN DANCERSの写真集『BONJOUR!!』の撮影はどうでした? 笠井さんが大人数ものを担当されるの、珍しい気がしたのですが。


CYBERJAPAN DANCERS『BONJOUR!!』より


笠井 そうですね。大人数ものを撮る機会はあまりないです。ただ、CYBERJAPANも担当編集さんの思い入れがスゴく強い子たちで。この『BONJOUR!!』が出る一年前に他社から写真集が出ていたんですけど、担当さんは、それよりずっと前からイベントに足を運んでは地盤を築きあげていたそうで。明確に、こんな写真集にしたいってイメージがあった上で、僕にオファーしてくださったみたいなんです。


――綿密に企画されてのオファーですか。腕が鳴る話ですね。


笠井 秋の台湾で2泊3日。写真からは伝わらないでしょうけど、湿気がヒドくて、とにかく暑くて。最初に訪れた古いホテルではクーラーが効かず、なかなか過酷な環境下での撮影だったんですよ。ソロカットも10人分。朝から晩まで、ひたすら撮り続けていた記憶があります。


――おぉ。楽しそうだけど、大変そうです……。


笠井 でも、やっぱり楽しかったですよ。みんな積極的な子たちばかりだったから、ひとりひとりに対するアプローチも、まさに十人十色でしたし。撮影中は、スポーツ選手ばりにアドレナリンが出ていましたね。不思議と、疲労感もなかったです。普段、何となく生きているときの方が疲れている気がしますよ(笑)。


――あはは。確かに、そういうものなのかもしれませんね。実際、写真集を見させていただくと、みなさん開放的で、どのカットも気持ちが良いくらいカッコよかったです。と、たくさんお話を聞かせていただきましたが、時間も時間なので、最後に今後の展望を教えてもらえますか?


笠井 写真家としては、コンスタントに写真集を出し続けたい気持ちがあります。もともと、膨大な数の写真集を出している荒木経惟さんに対する憧れもありますし、ここ4、5年は、2017年の『東京の恋人』に始まり、2019年には『東京の恋人』に連なる作品集『トーキョーダイアリー』(玄光社)を、今年は、かつて住んでいたドイツ・シュトゥットガルトで撮った母親の写真をまとめた『Stuttgart』(bookshop M)を刊行するなど、少なくとも年に1冊のペースで写真集を出していたので。とはいえ、今は一冊の写真集を出すのも簡単じゃない時代。これまで出してきた写真集も、写真集にしようと思って写真を撮りためたんじゃなく、たまたま撮りためたものが写真集になった感じだから、来年以降がどうなっているかは自分にも分かりません。今後について一言でまとめるなら、不透明ってところですかね。


――個人的にも、笠井さんの写真は、日々撮り続ける中で生まれてこそ魅力的だと感じます。大学時代に始められた日記的な写真が根底にあるというか(第二話参照)。仕事で撮る写真はまた別物かもしれませんが、それでも、無意識的に繋がっている感覚はあると思うんですよね。


笠井 そうですね。写真を始めたのも、今こうして週プレで仕事をさせてもらっているのも、展望があってのことじゃない。何となくやっていたら偶然こうなった、とも言わないけど、出会いがあって、タイミングが重なった結果ではあるじゃないですか。写真って、そもそもそういうものだと思うんですよね。毎日、写真を撮っているからこそ撮れる写真があって、何かのきっかけでそれが作品になり、写真集になる。あくまでも、生活の一環の上で成り立っているんです。写真集を出したいといっても、クリエイターとして作品を作るために写真を撮り続けるのは、また違う話です。


――日課ですよね。コロナ禍で「写真を撮りに行けない」と嘆く人がいる中でも、笠井さんは、可能な範囲で写真を撮り続けていました。写真家が写真を撮るのはごく自然なことで、そこに特別な意味はない。シンプルかつ、とても信頼できる考え方だと思いました。


笠井 たまに、カメラマン志望の若い人から「毎日写真を撮るにはどうしたらいいですか?」と聞かれることがあります。答えは簡単。1日1回、必ず撮るものを決めておけばいいんです。今も僕は、自宅のベランダから見える風景を毎日撮っています。毎日というと義務的に聞こえるかもしれませんが、感覚的には、気付いたときにパッと撮っているだけ。別に表に出さなくても、それが作品にならなくても、習慣化されるだけで写真に対するモチベーションの維持にはなるし、詰まるところ、生活の中に写真があることが重要なんですよね。


――“撮るもの”を探してしまうから撮れなくなってしまうと。写真に限らず、モチベーションが続かなくなるのは、最初から完璧にしようと考えすぎてしまうからなんですよね。


笠井 そうそう。とりわけ写真は理屈のいらない行為だし、あまり難しく考える必要はないんですよ。プロアマ関係なく、撮りたいものを素直に撮り続けた写真がいちばん良いんですから。そうして撮りためた写真を、自身の表現として作品に仕上げるのは難しいところですが、結局、日々撮り続けていないと、その段階には辿り着けない。例えば、今住んでいる家を引っ越したら、ベランダから撮り続けている写真は途切れてしまうけど、別にゴールがあるわけじゃないし、また引っ越した先で撮り続ける写真があるはずで。僕からすれば、それ自体がスゴく写真的なんです。展望の答えにはなっていないかもしれませんが、僕はこれからも、日々の写真を撮り続けるんだろうと思います。



第14回ゲストは、鈴木ちなみの初グラビアを手掛けたほか、年に一回、こじるり(小島瑠璃子)のグラビアを撮り下ろしてきた唐木貴央氏が登場! 2022/10/7(金) 公開予定です。お楽しみに!!


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笠井爾示プロフィール

かさい・ちかし ●写真家。1970年生まれ、東京都出身。

趣味=自炊

1996年に初の個展『Tokyo Dance』を開催し、1997年に新潮社より同タイトルの写真集を発売。以降、音楽誌、カルチャー誌、ファッション誌、CDジャケットなど、幅広いジャンルを手掛けるほか、『月刊 加護亜依』『月刊 神楽坂恵』『月刊NEO 水崎綾女』など、月刊シリーズでも活躍。

主な作品集は、『東京の恋人』、『七菜乃と湖』、『トーキョーダイアリー』、『羊水にみる光』、『Stuttgart』、川上奈々美『となりの川上さん』、階戸瑠李『BUTTER』など。CYBERJAPAN DANCERS『BONJOUR!!』、渡辺万美『BAMBI』、Da‐iCE『+REVERSi』、橋本マナミ『接写』などのタレント写真集や、頓知気さきな『CONCEPT』、武田玲奈『Rubeus』など複数の写真家による合同写真集にも参加している。

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