『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』カノウリョウマ 編 第二話「思い出を知る」 師匠・LUCKMAN氏から得た学び「学生時代は、恥ずかしさをガマンして夏菜さんのグラビアを見ていたんですけど……」

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。


第19回目のゲストは、2023年3月22日発売の『えなこカレンダーブック 2023.4~2024.3』でカメラマンを務めるカノウリョウマ氏が登場。明るく現場を盛り上げるカメラマン・LUCKMAN氏に師事し、現在はグラビアを初め、ポートレート写真を中心に活動している彼が語る、仕事、写真への思いとは。


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——阿佐ヶ谷美術専門学校(アサビ)卒業後は小学館スタジオに入社されたんですよね。


カノウ はい。スタジオではファッション誌や児童誌、ブツ撮りの撮影が多かったんですけど、ある時、グラビアの撮影が入って。後に師匠となる、カメラマンの樂滿直城(LUCKMAN)さんには、そこで初めてお会いしたんですよね。それまでグラビアというジャンルを意識したことがなかったのですが、樂滿さんの撮影がとにかく楽しそうで。程よくキャッチーな下ネタで、女のコを笑わせていたのがスゴく印象に残ったんです。スタジオマンになってから経験した現場の中で、いちばん明るかったと言っても過言じゃないですね。


——あはは。樂滿さんは、もともと観光カメラマンをされていた方ですからね(笑)。


カノウ ちょうど、スタジオを飛び出してロケの現場も学んでみたいと思っていたタイミングでした。樂滿さんと出会う前にも、アサビと小学館スタジオの先輩にあたるカメラマンの倉本ゴリさんのロケをお手伝いさせていただくことが何度かあったのですが、正式に他の人がアシスタントとしてつくことになって。なかなか同行するのが難しくなってしまった事情もあったので、すぐさま樂滿さんの当時のアシスタントさん(現・カメラマンの荻原大志氏)に「ロケの手伝いをさせてもらえませんか?」と声をかけさせてもらいました。


——樂滿さんの明るい現場に感銘を受けて、ですか?


カノウ そうですね。ただ、当初は弟子入りまでするつもりはなかったんです。実際、何度かロケを手伝わせてもらった後に「もうすぐ今のアシスタントが卒業するけど、良かったらうちのところに来ない?」と誘われはしたものの、まだスタジオで勤め始めて1年ほどだったこともあり、「スタジオにご恩を返すまで(後輩が育つまで)、あと1年待ってもらえますか?」とお願いさせていただいて。


——そうだったんですね。


カノウ もちろん、その後タイミングが合えば樂滿さんに弟子入りしようと思っていました。でも、あとから聞いた話、僕以外にも声をかけていた男の子がいたらしいんです。結局その子は入らなかったけど、もしその子が先に弟子入りしていたら、僕は樂滿さんにつけなかった。そう思うと、何か運命を感じますよね(笑)。正直、当時はグラビアのカメラマンさんに詳しくなかったし、何かが違っていれば、いま僕はココにいないかもしれません。


——そういえば、ここまであまり具体的な話が出てきていませんでしたが、グラビアには、どれくらいご興味があったんですか?


カノウ うーん、ほとんどなかったですね。学生時代、『GANTZ』が読みたくて『ヤングジャンプ』を手に取ったついでに、チラッと夏菜さんのグラビアを見たくらい(笑)。“エッチなモノ”だってイメージが強くて、まじまじと見るのが恥ずかしかったんですよね。あっ、でも高校生の頃に、一度だけ週プレを買ったな。当時気になっていた同級生の女の子に似ていた相武紗季さんが大好きで。ケータイで好きな画像を保存するくらいだったのが、いよいよ本格的に“写真”がほしくなって、恥ずかしながらもコンビニで買ったのを思い出しました(笑)。


——あはは。何だかかわいらしいエピソードですね。では、グラビアカメラマンに憧れたから樂滿さんに弟子入りされたってわけではないんですか?


カノウ そうですね。もともとは、専門学生時代に付き合っていた彼女の影響もあって、写真作家への興味の方が強かったんです。スタジオに勤務している時も、横田大輔さんや細倉真弓さんなど、当時まだ若手だった写真作家さんたちと一緒に写真を撮りに行ったり、公募展に応募したり、どちらかというとアートフォトに没頭していました。樂滿さんのアシスタントになろうと思ったのは、言葉を選ばずに言うと、“仕事としての写真”についても学んでおきたかったから。現状、雑誌のグラビアページを撮らせてもらうことがほとんどですが、本当は、当時も今も、もう少し自主的な写真活動を増やしていきたいと思っているんですよね。


——なるほど。確かに2020年12月、キューバで撮影された写真をまとめた作品集「TRINIDAD(トリニダード)」を発表、写真展も開催されていましたよね。


カノウリョウマ 「TRINIDAD(トリニダード)」より。


カノウ 「TRINIDAD(トリニダード)」は、専門学生時代の友人たちに製本・ブックデザインをお願いして、自費で制作した写真集です。仕事とは違ったカタチで一冊を完成させられたのは、かなり大きな自信になりました。こうした撮影は、スタジオマンや樂滿さんのアシスタント時代から地道に行なっていて。それこそ樂滿さんの海外ロケにアシスタントが同行できない際には、その時間を有効活用して、キツネやフクロウなどの動物の剥製の写真を撮りためていました。


——剥製の写真……?!


カノウ 写真って、視覚以外の感覚を想像力で補いながら見るものじゃないですか。既に命のない剥製を写真に収めることで、いかに見る人の想像力を働かせ、生々しさを感じてもらうことができるか……。そんな表現に挑戦しました。なけなしのお金で10数万する剥製を借りて、レンタカーで森の中まで運んで。そこで剥製に命を吹き込むかのように撮影をしたり、専門の施設で自ら剥製作りに挑戦し、その様子を撮影したりしました。


——ロケがお休みでも、データの整理などでお忙しいでしょうに。時間を見つけては、自身の作品に力を注がれていたんですね。


カノウ 一方で、樂滿さんのアシスタントにつかせてもらったからには、絶対にグラビア業界で成果を出してやるって気持ちもありました。根が負けず嫌いな性格なので、独立した後「樂滿さんのところにいたカノウくんって、いま何しているんだろうね?」なんて言われるのは絶対に嫌だったんです。樂滿さんの現場に同行するうちに、グラビアを撮る面白さも感じ始めていましたしね。


——というと?


カノウ グラビアの現場って、グルーヴ感がスゴいんですよ。ほかの現場に比べても、モデル含め、スタッフ全員が同じ方向を向こうとしている。一体感を持ってひとつの作品を作り上げようとする熱量に、とても惹かれました。もちろん、全体がうまく一致しない場合もあるんですけど、樂滿さんは、どんな状況であっても必ず楽しい空気を作ろうとされていた。例えるなら、周りが曇っていても、樂滿さんだけはずっと晴れなんですよね。


——本コラムで樂滿さんをインタビューさせていただいた時も、「とにかく現場は楽しくないと」とおっしゃっていました。


カノウ 自分がカメラマンとして現場に立たせてもらうようになってから、樂滿さんの明るいテンションの偉大さを改めて実感しています。意識はしていても、簡単には真似できないですね。僕の現場は、滑り芸が名物なので(笑)。


——そんなことないでしょう(笑)。樂滿さんの底抜けの明るさは、なかなか真似できるものじゃないと思いますけど。


カノウ ひとつ樂滿さんの真似をしていることでいうと、現場で撮ったデータを即プリントして、タレントさんにプレゼントすること。余裕がない時は難しいのですが、樂滿さんのアシスタント時代に、プリントをあげることで女の子が喜んでいる姿をたくさん見てきましたから。いちばん覚えているのは、まだデビューして間もない頃の西野七瀬さん(当時、乃木坂46のメンバー)の現場。撮影に慣れていない様子で、僕にまで緊張が伝わってきていたのですが、樂滿さんの明るさにつられて笑顔が増えて。プリントした写真をお渡しすると、嬉しそうにじっくり眺めていらしたんですよね。“写真をくれるカメラマン”として、タレントさんにも覚えてもらいやすいし、僕も、なるべくプレゼントするようにしていますね。


——今や現場では、パソコンでのデータチェックがメインですからね。プリントした写真をもらえるのは、何だか特別感がある気がします。


カノウ その後、アシスタントにつかせてもらって3年が経った頃、自ら「僕も撮影する側にいきたい」と樂滿さんにお話しして、2016年に独立しました。その時、決意表明も兼ねて、アシスタント時代に撮りためた人物写真を中心としたポートフォリオを作って、樂滿さんにお見せしたんです。そしたら樂滿さんは、一言「良いやん」と(笑)。楽観的な反応をくださったんです。


——あはは。樂滿さんらしいですね(笑)。


カノウ 独立後、樂滿さんの弟弟子にあたる藤本和典さん、佐藤佑一さんにもポートフォリオをお見せする機会がありました。まず佐藤さんは、僕が営業に行った編集部でたまたま撮影の打ち合わせをされていて。お互いに編集部での用事が済んだ後「お前、どんな写真撮ってるんだよ。ちょっと見せてみろよ〜」と、テンションこそ気さくだったものの、「まだ表現しきれていないだけで、本当はこう撮りたいんだよね」って、写真の裏にある僕の頑張りを読み取ってくださったんですよね。熱く優しい言葉に、とても励まされました。


——藤本さんは?


カノウ (樂滿氏、藤本氏、佐藤氏の席がある)渡辺達生さんの事務所でお会いした時に見てもらいました。普段は飄々(ひょうひょう)としていらっしゃる方なのですが、写真を見る時は真剣で。「つまらない写真だね」とバッサリ言われてしまったのを覚えています。自分の撮りたい写真を自由に表現できるのがポートフォリオの強みなのに、どこか仕事を意識していたのか、ただの練習にしかなっていなかったんですよね。おっしゃる意味がよく分かるから、とても悔しかったです。いつか「いい写真を撮るじゃん」と言わせてやる! と思いました。


——おぉ、まさに三者三様の意見だったんですね。


カノウ グラビア界で活躍されている先輩方が身近に3人もいて心強い反面、僕もはやく肩を並べられるようになりたいと、改めて決意が固まった出来事でした。作品撮りも頑張りたいけど、まずは、ちゃんとグラビアで結果を残さなきゃ。まだまだ頑張ります。


カノウリョウマ 編・第三話は3/24(金)公開予定! 独立後、ほぼ初めての仕事で甲本ヒロトを撮影!? 週プレでの初グラビアは、まさかのヌード!


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カノウリョウマプロフィール

かのう・りょうま ●カメラマン。1988年生まれ、東京都出身。

趣味=サウナ、猫と遊ぶこと

カメラマン・LUCKMAN(樂滿直城)氏に師事し、2016年に独立。

2023年3月22日発売の「えなこカレンダーブック 2023.4~2024.3」を手掛けているほか、宮内凛「凛と」、松田美里「となりがいい」、澄田綾乃「PURITY 」、本郷柚巴「2nd写真集(仮)」、金子隼也「Be Myself」などの写真集を撮影。スタジオマン時代、アシスタント時代に、第5回、第10回写真「1_wall」展にて入選。プライベートワークに、キューバで撮影した写真を編纂した「TRINIDAD(トリニダード)」がある(2020年12月に高円寺「GALLERY33」で同タイトルの個展を開催した)。

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