『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』岡本武志 編 第二話「思い出を知る」 師匠・熊谷貫から受けた確かな学び

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。



第7回目のゲストは、吉岡里帆の貴重な初グラビアや、奥山かずさ『マイナス8度の吐息。』、週プレnetで公開された工藤美桜『ピンクの放熱』など、光が印象的なグラビアを撮り下ろしてきた岡本武志氏。本コラムの第一回目に登場したカメラマン・熊谷貫氏を師に持つ岡本氏が語る、“グラビアを撮ること”とは。

 

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――studio FOBOS(スタジオフォボス/中目黒にあった写真スタジオ)に入ってからは、どのようなことを?


岡本 基本的な機材の名前や扱い方を学びつつ、どんなカメラマンになっていきたいかを考えていました。アイドルは全然知らなかったけど、大学時代から女の子や人を撮る楽しさは実感していたし、漠然と「撮るならグラビアかなぁ」とは思っていて。勉強の一環として、いろんな雑誌を読んでいたら、週プレのグラビアがスゴく良かったんですよね。クレジットを見てみると、ほとんどが師匠(カメラマン・熊谷貫)か小塚(毅之)さんで。これはもう、どちらかに弟子入りするしかないと、お二人の写真集を買って、ひたすら読みまくっていました。当然ながら、お二人の認識は名前と写真のイメージだけ。顔も人柄も知らなれければ、FOBOSはグラビアで使われる機会がほとんどなかったので、どうにかして繋がる術もなく。カメラマンの求人情報が載っている『コマーシャル・フォト』(玄光社)のバックナンバーを読み漁ってみても、どこにもお二人の連絡先は書かれていなかったです。どうしようかと困っていたら、偶然、女優さんの撮影をしに師匠がFOBOSに来たんです。そのとき僕は、スタジオの玄関番をしていて。師匠が「時間まで近くのモスバーガーにいるから、始まったらここに電話して」って名刺をくれたんですよね。


――「熊谷貫」と書かれた名刺を、ですか?スゴい出会いですね!


岡本 そうなんです。撮影自体は、ちゃんと見られなかったんですけどね。遠目から師匠の頭だけが見えたの「これが熊谷さんか」と、静かに眺めていました。で、そしたら、ちょうど師匠も次のアシスタントを募集するタイミングだったとお聞きしたので、後日、すぐに電話をしたんです。面接をしに師匠の事務所に行って、はじめてちゃんと師匠の顔を見たときは、あまりの存在感に緊張したのですが、師匠が撮影した、僕の大好きな石原さとみさんや紗綾さんの写真集の話しをしたら、途端に朗らかな笑顔を見せてくれて。一般的には、3年ほどスタジオマンをやってからカメラマンの直アシ(専属アシスタント)になるところ、1年ちょっとのスタジオ経験で、師匠のアシスタントにつかせてもらえることになりました。


――今や週プレのグラビアに欠かせないお二人の師弟時代。とても気になります。


岡本 もはや先生でしたね、師匠は。初歩的なことから核心をつくことまで、細かく丁寧に教えてくださいましたから。例えば、“請求書を送る封筒の書き方”のようなビジネスマナーも教わりましたし、「望遠レンズとは何か分かるか?」みたいなクイズを出されることもありましたね。「え、何ですか?」、「圧縮だよ」、「……圧縮って何ですか!?」って(笑)。要は、望遠レンズを使えば、手前と奥の距離感が圧縮されて、実物以上にモノとモノが近づいて見えるんですよね。そういうのを、論理的に教えてくださるんです。学校ですよね。アシスタントを卒業するときも、「お前には教え過ぎたなぁ」と言われたほどです。


――本コラムでインタビューさせてもらったカメラマンさんのほとんどが「師匠から、写真のことは何も教わらなかった」と話されていたので、少し特殊な感じがしますね。ちなみに、本コラムのタイトルは、第一回目で熊谷さんにお話を聞いた際、バイブルとして紹介いただいた名取洋之助さんの著書『写真の読みかた』から来ているんですよ。


岡本 あぁ、僕もアシスタントについてから、まず最初に、ボロボロに読み込まれたその本を渡されましたよ。「写真って読むものなんだ!」と、写真の組み方やロジカルを、そこではじめて知りましたね。


――熊谷さん、ブレないですね(笑)。アシスタントにはどれくらいの期間つかれていたんですか?


岡本 約3年半ですね。特に前半は怒られまくりでした(笑)。まだポジが主流の時代。当時のアシスタントは、僕に限らずみんな、ひたすらフィルムチェンジをしていたと思います。せっかくロケでオーストラリアやニューカレドニアなんかに行っても、景色を見る余裕が全くなかったから、手元の記憶しかないんですよね。それに、ポジはちょっとでも露出を測り間違えると、うまく写真があがってこない。現像所へ写真を受け取りに行くたびにドキドキしていましたね。で、そうこうしているうちに、途中からデジタルカメラの時代へ突入します。最初は、ポジとデジタルを半々で使い分けていたんですけど、デジタルに関してはお互いに無知だから、わざわざ休日に集まって、いろんなメーカーのデモ機を取り寄せて、同じシチュエーションの写真を出力して、徹底的に各社の特徴を比べたんですよね。そういった経験は、スゴく勉強になりましたよ。


――そこまで綿密に研究を……!本当に学びの多いアシスタント生活だったんですね。


岡本 とはいえ、師匠の仕事ぶりを直近で見れば見るほど怖くなったんですよね。自分も師匠と同じように現場を回せるだろうか。このままではカメラマンになれないんじゃないかと不安になって、自信を失いかけたこともありました。ある程度、アシスタント生活にも慣れてきたし、本格的に作品撮りをやっていかなきゃ。そう決めて、芸能事務所でマネージャーをやっていた知り合いに声をかけては、休日に、まだ名前が売れる前のモデルさんを撮影させてもらっていました。あとは、夜な夜なクラブに通っては、躍り狂うフォトジェニックな人たちを撮ってみたり、夏休みには、大学時代の友人がやっていた海の家のアルバイトを手伝いながら、ビーチにいる人たちを撮らせてもらったり。アシスタントと並行して、いろいろやっていましたね。


――その結果、不安は解消されたんでしょうか。





岡本 いえ、全く。独立して仕事をもらえるのか、ずっと不安でしたよ。でも実は、いちばん最初に自分の名前がクレジットに載ったのは、アシスタント時代なんですよね。師匠がベトナムで小松彩夏ちゃんを撮ったとき、最後にDVD用の映像を撮影する時間があって、彩夏ちゃんが物づくりをしている様子をスチールでババッと撮らなきゃならなかったんですよね。師匠にカメラを渡されて、「撮ってみろよ」と言われて。突然でしたし、緊張しながら撮ったのを覚えていますね(笑)。


――デジタル写真集『34 ―AYAKA KOMATSU 2006~2020―』にて、岡本さんの名前を発見しました。これが貴重な初仕事、だったんですね。


岡本 そうですね。まぁ、撮影料をもらっていないので、仕事と言っていいのか分かりませんが(笑)。


――改めて、熊谷さんから学んだなかで、特に、今活きていることといえば何でしょうか。


岡本 師匠は、撮る女の子のことをめちゃくちゃ深く考えている方なんですね。それは性格もあるだろうし、簡単には真似はできないんですけど、グラビアって、見えない部分でどれほど気を回せるかが大事なんですよ。女の子に対してもそうだし、天気に対してもそうだし。被写体の前に立ってカメラを構えているだけじゃ、撮れないんですよね。その辺、僕はあまり気の利くタイプじゃなかったから、「お前はまだまだ撮れないな」と、散々言われ続けていましたよ(笑)。そういった技術以上に大切な写真を撮るうえでの考えは、たくさん教わった気がしますね。実際、今グラビア業界で活躍しているカメラマンさんは、みなさん、気の使い方が上手い方たちばかりだと思いますし。


――感覚的なことを言語化して伝えてくれるのが、熊谷さんのスゴいところですよね。


岡本 師匠から「お前はこづー(熊谷貫と同期のカメラマン・小塚毅之)と同じ“天才タイプ”だな」と言われたことがあって。「こづーの方が天才だけどな」と、後から付け加えられるんですけど(笑)。僕は師匠にも小塚さんにも憧れていましたが、確かにお二人は真逆なタイプなんですよ。小塚さんが、言葉を持たずに直感で辿り着く人だとしたら、師匠は、コツコツと道筋を立てたうえで到着する人というか。そう言われると、僕も、あまり深く考える人ではないから、小塚さんと同じ直感タイプなんですよね。何なら、言葉にできないから写真を選んだくらいだったので、師匠がグラビアのこと、写真のことを言語化されているのは、弟子としてありがたいことでしたし、尊敬している部分です。師匠とはタイプの違う僕が、どこまでその教えを活かしきれているのか、心配になる瞬間もありますけど(笑)。


岡本武志編・第三話は3/18(金)公開予定! オトコが憧れるオトコ、そして、吉岡里帆の初グラビアを撮る!


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岡本武志プロフィール

おかもと・たけし ●写真家。1981年生まれ、東京都出身。

趣味=野鳥観察、珈琲を淹れること

写真家・熊谷貫氏に師事し、2010年に独立。

主な作品は、中島早貴『なかさん』、吉岡里帆『13 notes#』、武田玲奈『タビレナtrip1,2,3』、牧野真莉愛『Summer Days』、齊藤京子『とっておきの恋人』、花咲ひより『Metamorphose』、ゆきぽよ『はじめまして』など。ほか、小西詠斗『瞬間』や近藤頌利『軌跡』など、男性俳優の写真集も担当。光を鮮やかに捉えた作風が特徴。


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