『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』岡本武志 編 第三話「こだわりを知る」 一回一回が勝負の場

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。



第7回目のゲストは、吉岡里帆の貴重な初グラビアや、奥山かずさ『マイナス8度の吐息。』、週プレnetで公開された工藤美桜『ピンクの放熱』など、光が印象的なグラビアを撮り下ろしてきた岡本武志氏。本コラムの第一回目に登場したカメラマン・熊谷貫氏を師に持つ岡本氏が語る、“グラビアを撮ること”とは。


岡本武志 作品のデジタル写真集一覧はコチラから!


――熊谷貫さんのアシスタントを卒業されたあとは、どのようにして仕事を?


岡本 まとまった仕事はほとんどなかったですが、取材の撮影やちょっとした企画に呼んでいただくことはチラホラありましたね。例えば、週プレだと「AVJ(AV嬢)48」という面白い企画があって(笑)。セクシー女優さんと会える店、飲める店など、セクシー女優さんが働いている各店に足を運んで、48人分の写真を撮るんですよ。ひとつひとつ出向かなきゃいけないから、時間がかかってしょうがないんですけど、僕みたいな駆け出しカメラマンにはうってつけの仕事でしたよね。あと、夏の毎年恒例企画だった「水着美女キャッチ」。週プレに配属された新人編集の方が最初に任される仕事だそうで、今もお世話になっている編集さんと一緒に、ビーチに遊びに来た素人美女の水着姿をひたすら撮った思い出があります。夏の掲載に間に合うよう、5〜6月に撮りに行くから、ビーチに行っても全然人がいないんですけどね。


――独立当初から、週プレでのお仕事も多かったんですね。


岡本 ただ、僕がカメラマンとして軌道に乗り始めたのは、週プレでもなければ、女の子のグラビアでもないんですよね。というのも、仕事がなかったときに偶然、飲み屋で知り合った編集者がいて。かなりディープなエロ本を作っていた編集部の方だったんですけど、その方が「今度うちの編集部で、“武骨な感じ”のメンズファッション誌を作ろうと思っているんだよね」と声をかけてくださったんです。そこで、定期的に『RUDO』(マガジン・マガジン)って雑誌の「漢着スナップ」という特集ページの撮影を任せてもらうようになって。カメラマンとして多少生活できるようになってきたのは、その仕事をいただいてからだったんですよね。


――ということは、最初は男性の写真を撮る機会の方が圧倒的に多かったんですか?


岡本 そうなんですよ。「漢着スナップ」では、俳優さんやお笑い芸人さん、職人さんなど、いろんな男性の私服スナップを、いかに“武骨な感じ”で撮れるか、毎回、試行錯誤しながら撮っていました。めちゃくちゃ楽しかったですよ。それと並行して、当時ジャパニーズ・ウェッサイ(アメリカ西海岸に位置するカリフォルニア州ロサンゼルスで隆盛したヒップホップカルチャーの日本版)と呼ばれていたヒップホップレジェンド・DS455さんが好きだったので、アメ車と音楽(ヒップホップ)とファッションを扱ったカルチャー誌『CUSTOM LOWRiDING(カスタムローライディング)』(トランスワールドジャパン/現在は休刊)に自ら営業に行って、ヒップホップアーティストを撮る仕事なんかもやっていました。


――そういえば、週プレ グラジャパ!にも、井筒和幸監督の映画『パッチギ!』(2005)で注目を集めた俳優・波岡一喜さんを撮ったデジタル写真集『FOURTY』がありますよね。女の子のグラビアが並ぶなかだと、異色のラインナップです。


岡本 実は週プレでも、モノクロの取材ページで、男性の写真をよく撮らせてもらっていた時期があるんですよ。クレイジーケンバンドの横山剣さんとか、デザイナーの山本寛斎さんとか。スゴい面々ですよね(笑)。そのときお世話になっていた編集の方が、デジタル写真集のチームに移られたこともあって、3年ほど前に「オトコが惚れるオトコがいるんですよ!」と「漢着スナップ」でご一緒した波岡さんを紹介させてもらったんです。そしたら「一度、デジタル写真集限定でグラビアを撮ってみようか」って話になって。


――岡本さん発信のグラビアだったんですね!ちなみに岡本さんは、波岡さんのどういうところに惚れたんでしょう? 


岡本 エピソードがありまして。その「漢着スナップ」の撮影には、なぜか波岡さんのご家族も立ち合っていたんですよね。奥さんと息子さんの視線を感じながら、激シブに波岡さんを撮るという、なかなかカオスな現場で(笑)。そしたら、当時3歳だった息子さんが、いきなり「パパー!」と波岡さんの足元に駆け寄って行って、波岡さんがその子をハグしたんです。さっきまでコワモテな顔をして撮られていた波岡さんが、途端に柔らかい笑顔になって。その感じにグッときたんですよね。誌面には絶対に使われないと分かっていながら、その様子を撮る手を止められなかったほどです。


――すてきなエピソードですね。確かに、デジタル写真集『FOURTY』でも、溢れ出るオトコの色気と愛嬌のある笑顔とのギャップに、思わずときめいてしまいましたよ。


 


岡本 そうそう。シブいカッコよさだけじゃなく、猫カフェや浅草花やしきで遊んでいるほっこりパートでの柔らかい表情が、またいいんですよね。ヌードのカットもぜひ見てもらいたいのですが、当時40歳にして、ストイックに体を鍛え続けている波岡さんの色気は、まさにオトコが惚れるオトコの姿ですよ。今、ようやく僕も当時の波岡さんの年齢に追いつきましたけど、「40歳でこうはならねぇ」と改めてそのスゴさに気づかされました(笑)。またいつか、男性にこそ見てもらいたいオトコの哀愁漂うグラビアも撮っていきたいですね。


――とはいえ、もとは女の子を撮りたくてカメラマンになられたはず。今に繋がるグラビアの仕事は、どう増やしていったんですか?


岡本 おっしゃる通りで、「漢着スナップ」を機にカメラマンとして充実していったものの、「本当は、女の子のグラビアを撮りたかったんだよなぁ」という思いは、ずっと心のどこかにあって。ちょうど、どうしようかと思い始めたときでした。師匠と付き合いのあった『TVガイドPERSON』(東京ニュース通信社)の編集長が、編集者さんと一斉にアイドル誌『B.L.T.』の編集部に異動されたタイミングがあって、僕の営業用のブックを見てもらえることになったんですよ。本格的に、女の子のグラビアを撮るようになったのはそこから。さらに、そこで撮ったグラビアを持って営業に行ったら、いろんな雑誌での撮影が決まっていったんです。


――ひょんなご縁がきっかけだったんですね。男性メインの撮影から、女性メインのグラビアへ。その特徴的な経歴が活きている実感はありますか? 


岡本 それこそ、女の子のグラビアを本格的に撮りはじめた当初は、撮り方に悩んでいたんですね。シンプルに分かりやすいグラビアを撮っていくべきか、はたまた「漢着スナップ」同様に、試行錯誤を取り入れていくべきか。飛び抜けたことをしてハマらなかったら、次の撮影に呼ばれなくなるリスクもあったし、かといって調和的すぎるのも何か違うしと、絶妙なせめぎ合いのなかで撮影をしていたんです。このまま悩み続けても何も変わらない。そう思ったとき、『B.L.T.』から別冊として出ている『blt graph.』のグラビア撮影があったので、思い切って『RUDO』でやってきた経験を活かしつつ、あえてオトコっぽく女の子を撮ってみたんですよね。


――思い切りましたね!反応はどうだったんでしょう。


 


岡本 「意外と面白いね」って。実験的な試みでしたが、こういうテイストもアリっちゃアリなんだというのが分かったのは、大きな自信になりました。その後すぐに、週プレのとある編集の方から「雰囲気のある感じにしたい」とお話をいただいて。それで撮ったのが奥山かずさちゃんの週プレ初登場グラビア(デジタル写真集『平成最後のニューヒロイン!奥山かずさの魅力に迫る。』)だったんですよね。このときは、編集さんが求めている雰囲気に、僕の色がピタリとハマった感覚がありました。常に「どういう風に撮ったら週プレから仕事が来るかな」と考えながらグラビアを撮っていたので、やっとそれが叶った実感を持てた奥山さんのこのグラビアには、相当な思い入れがありますよ。


――そんな意識があったんですね。カメラマンを志し、グラビアに惹かれたきっかけのひとつに、週プレで見た熊谷さんのグラビアがあったと話されていましたが(第二話参照)、やはり岡本さんにとって“週プレで撮れること”は特別なんでしょうか。


岡本 特別ですよ。それは師匠についていた頃から思っていたことで、週プレは、表現としてグラビアを追求できる唯一の場所と言っても過言じゃないですからね。たった数ページ分の撮影に膨大な時間を割けるのも贅沢ですし、だからと言って、時間を費やせばいいグラビアになるとも限らない。その都度やり方を変えて作っていく一回勝負の世界観は刺激的だし、楽しいです。


――個人的に、岡本さんが撮られたグラビアのなかで特に印象的なのが、吉岡里帆さんの初グラビア(2014年7月発売号)でして。慣れない表情から伝わる緊張感……。まさに、このとき限りのグラビアですよね。


 


岡本 そうですね。僕もまだ、先ほど話した試行錯誤を取り入れるか迷っていた時期だったし、里帆ちゃんも初めてのグラビアで警戒心が強めだったから、スゴく記憶に残っています。確実に「よっしゃ、グラビア頑張るぞ!」のテンションじゃなかったんですよね。撮っていて、「指示された通りにしているけど、何でこの角度から撮っているんだろう?」とか「このカメラマン、大丈夫だろうか?」とか、いろいろ不安を抱えながらも、プロ意識を持って頑張ってくれている感じがひしひしと伝わってきましたよ。天気も悪かったですし。今見返してみても、当時にしかない空気感がしっかりと写っていますよね。


――本当に。初グラビアならではのリアルな感情が伝わってくるような気がします。


岡本 後に師匠が撮った里帆ちゃんのグラビア(デジタル写真集『光と風と夢。』や写真集『里帆採取 by Asami Kiyokawa』など)は、もう表現の領域に入っていますけど、僕が撮らせてもらった初グラビアは、そのほんの入り口。グラビアに対する気持ちや覚悟を、心のなかで整理している途中なんだと思います。ただ、緊張や戸惑いはあっても、性格上、周りに気を遣える子だし、現場では、彼女なりに明るく振る舞っていたのも覚えています。また機会があれば撮らせてもらいたいですね。


岡本武志編・最終話は3/25(金)公開予定! 光はモチベーション!勝負を込めた工藤美桜のグラビアを語る。


岡本武志 作品のデジタル写真集一覧はコチラから!



岡本武志プロフィール

おかもと・たけし ●写真家。1981年生まれ、東京都出身。

趣味=野鳥観察、珈琲を淹れること

写真家・熊谷貫氏に師事し、2010年に独立。

主な作品は、中島早貴『なかさん』、吉岡里帆『13 notes#』、武田玲奈『タビレナtrip1,2,3』、牧野真莉愛『Summer Days』、齊藤京子『とっておきの恋人』、花咲ひより『Metamorphose』、ゆきぽよ『はじめまして』など。ほか、小西詠斗『瞬間』や近藤頌利『軌跡』など、男性俳優の写真集も担当。光を鮮やかに捉えた作風が特徴。


おすすめコラム

関連サービス