『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』岡本武志 編 最終話「おすすめを知る」 一期一会の光

あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく本コラム。“カメラマン側から見た視点”が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。



第7回目のゲストは、吉岡里帆の貴重な初グラビアや、奥山かずさ『マイナス8度の吐息。』、週プレnetで公開された工藤美桜『ピンクの放熱』など、光が印象的なグラビアを撮り下ろしてきた岡本武志氏。本コラムの第一回目に登場したカメラマン・熊谷貫氏を師に持つ岡本氏が語る、“グラビアを撮ること”とは。


岡本武志 作品のデジタル写真集一覧はコチラから!


――週プレ グラジャパ!にある作品のなかで、特に思い入れのあるグラビアを教えてください。



岡本 デジタル写真集にはなっていないのですが、工藤美桜さんの『ピンクの放熱』(週プレ プラス!+アーカイブスにて配信中)は、写真が気に入っているだけじゃなく、僕にとっても大きな試練だったので、思い入れも強いです。というのも、工藤さんの担当編集の方とは、アシスタント時代から面識があって。僕から見たその方は、バリバリに尖った熱い編集者。一緒に仕事をするってだけで、緊張感がありました。ここでダメだったら、次はもうないかもしれない。この『ピンクの放熱』は、そんな思いで、師匠(カメラマン・熊谷貫)が撮ったグラビアではどんなカットが選ばれていたかなと、編集さんの好みを探りつつ撮っていたんですよね。


――結果的に、工藤さんの熱を感じる印象的なグラビアになりましたよね。


岡本 フォトジェニックなんですよね、工藤さんって。直感型なのか、その場その場の状況に応じて、表情やテンションをサッと切り替えているんですよ。それを追うようにバーっとシャッターを押して、あとで上がりを確認したら、撮っていた自分すら記憶にないようないいカットがたくさん撮れているんです。多分、場所がどこだろうと、周りに誰がいようと、自分の世界観を作れてしまう人なんでしょうね。誰が撮っても、きっと同じ現象が起こると思いますよ。


――撮る側の想像を超える出来栄えになると。


岡本 はい。まさに想像を超えていましたね。それと、この日は太陽光にも恵まれていました。これまでに何回か工藤さんを撮らせてもらったときも、全て晴天だったので、本誌の表紙にもなるこのグラビアで、その晴れのニュアンスを出したいと思っていました。ここで見事に太陽を呼んだのもまた、工藤さんの持っている力ですよね。真冬の奥多摩の自然豊かな風景と、あたたかみのある太陽の光。最高の絵になりましたよ。


――光というと、小山璃奈さんの『WHITE ALBUM~ゼロ~』でも、突然、夕陽が差し込んできた瞬間があったとお聞きしました。



岡本 『WHITE ALBUM~ゼロ~』は、当初、初めて水着グラビアに挑戦する璃奈ちゃんのテスト撮影(誌面に載る予定のない予行演習的な撮影)として撮ったグラビアだったんですよね。にもかかわらず、あがった写真のクオリティがあまりに高く、現場が騒然となり、緊急で誌面掲載が決まって……。そんなドラマチックな現場の最後のシーンでした。ビルとビルの合間から、いきなりヒョコッと夕陽が顔を出してきたんです。ここを逃したらもう2度と出会えない光だと思ったから、璃奈ちゃんの立ち位置から夕陽の見え方までを瞬時に判断して、画角に収める必要がありました。これは、そうして何とか撮れた奇跡みたいなカットです。今思い出してもテンションが上がりますね。


――朝陽にしろ、夕陽にしろ、そのときにならないと、どう光が差し込むか分からないですもんね。


岡本 一日の撮影のうち、いい光にどれだけ出会えるか。それだけでグラビアの出来は大きく変わるものです。光の活かし方次第で、女の子の表情は、良くも悪くも違って見えます。顔のどの位置に光を置くか。瞳をどれくらい光らせるか。言わば “光と影のデッサン”ですよね。繊細な塩梅で調整していくと、何でもないワンシーンも、一気に芸術になるんです。逆に、ちょっとでもズレていたら、せっかくの表情も台無しになってしまう。そのときにしかない一期一会の光を、いかに捉えて、いかに利用するか。グラビアを撮るやりがいは、そこに集約されていると言ってもいいくらいですよ。


――岡本さんのグラビアを見るたび、光が印象的だと感じていました。こうして岡本さんの口から光について語られているのを聞くと、改めてその重要性を実感します。


岡本 アシスタント時代の話に戻りますけど、当時、現場で師匠がレフ板をほとんど使っていないのに驚いた記憶があります。「グラビアの撮影方法」みたいな本を読むと必ずレフ板の話が出てくるのに、何で師匠は使わないんだろうって。理由は単純で、師匠は、その場にある自然の光を拾って撮っていたんですよね。のちに師匠から「朝の光と夕方の光は違うんだよ」と教えてもらいました。そのときは「言われてみると、朝はチリが飛んでいない分、光が澄んで見えるかも?」くらいの認識で、注意深く見てみても全く理解できなかったんですけど(笑)。昇っていく光と沈んでいく光とでは、確実に色が違うんですよね。


――はじまりの朝陽、名残惜しさの夕陽、といった感じでしょうか。感覚的な違いとはいえ、グラビアにおいてはかなり大きな違いですよね。



岡本 もうひとつ、奥山かずささんの『マイナス8度の吐息。』も思い入れがありますね。奥山さんの地元である青森県での撮影でした。真冬の吹雪に、東京育ちの僕は「このまま凍え死ぬんじゃないか」と思ったほどでしたが、当の奥山さんは、水着姿だというのにキリッと表情を決めてくれていて。その姿がめちゃくちゃきれいで、カッコ良かったんですよね。そんな雪のシーンに続く、湯気立つ温泉シーンは、あまりの温度感の違いに、見ているだけで「あったまったー」とホッとしてしまうと思います(笑)。この演出のギャップは、我ながらうまくできた実感がありましたね。


――まさに、見ていてホッとしました(笑)。外でかじかんだ体が温泉の熱気に包まれて癒えていく感覚が、リアルに伝わってくるグラビアですよね。


岡本 実は温泉って、質感を写すのにうってつけな最高のシチュエーションなんですよね。むしろ女の子がいなくても、温泉の熱気と光を撮るだけでも楽しいというか。それくらい撮り甲斐のあるシチュエーションだと、最近になって気がつきましたよ。あと、少し話は逸れますが、食べ物を撮るのも好きで。ほぼ使われないと分かっていながら、女の子が何かを食べているシーンを撮ったついでに、「美味しそうだなぁ。どうやったら、この美味しそうな感じを写真に写せるかなぁ」と、毎回、食べ物だけのカットも撮ってしまうんですよね。結局それも、グラビアで女の子を撮るときと同様に、光の活かし方が重要になってくるわけですけど。いかに素材感を伝えるか。この感覚は、人やモノを撮るうえで、常にどこかにあるんだと思いますね。


――個人的にも、空気感や存在感から自ずと五感が働く写真は、何度でも見たくなってしまいます。ほかに、グラビアを撮っている最中に働く意識は何かありますか?


岡本 多方向から撮ること、ですかね。料理屋で例えるなら、カメラマンは、うまく調理してくれる料理人(編集者)に“いい食材(写真)を卸す人”なんです。師匠にも口酸っぱく言われましたよ。右向き、左向き、寄り、引き、正面で撮る一連の流れを体に染み込ませておけって。この多方向から撮る大切さを身をもって知ったのは、独立する直前でした。師匠が撮ったとある女の子の写真集のカットを渡されて、「デザイナーが仕上げる前に、お前なりに写真集を組んでみろ」と課題をいただいたことがあったんですよね。実際に組んでみると、いくら良い写真だとしても、同じ角度のカットは並べられないわけです。師匠が言っていたのはこういうことかと。いろんな角度をとっておく意識は、もはや癖になっていますね。


――熊谷さん、そんなことまで教えてくださったんですね!


岡本 ここまで丁寧に課題を与えてくださるのは、師匠くらいだと思います(笑)。ただ「そんなこと考えず、もっと感覚的に撮ってくれたらいいよ」と言ってくださる編集さんもいますね。多方向から撮っているうちに、光や表情の鮮度は落ちていきますから。角度、光の位置、表情の変化。全てが完璧に合わさるのは、ほんの一瞬です。「そのままの表情で」と女の子に言うのは簡単ですが、“反射的に出た表情”と“それをキープしている表情”は、同じように見えて全くの別物ですし、何より光は待ってくれないので。


――いつ、どのタイミングでシャッターチャンスが訪れるか。常にアンテナを張っておく必要があるってことですよね。


岡本 そうですね。だから現場では、いつも時間に追われて慌てふためいていますよ(笑)。決定的な瞬間を逃さないようにしつつも、時間内に用意された衣装分のカットを撮り終えないといけないと、一通り撮り切るまでドキドキしっぱなしです。


――撮るときは一瞬でも、写真は時間を超えて残るものです。そうやって瞬間瞬間を緻密に捉えた写真は、きっと時間が経っても色褪せないんだろうなぁと思いますね。


岡本 ここ1〜2年は、瞬間ごとに、使用するレンズにもこだわるようになりました。マウントアダプターというアクセサリーを使うと、ソニーのボディにニコンのレンズが付けられたり、最新の一眼レフカメラに50年前に発売されたオールドレンズが付けられたりして、写真の幅が格段に広がるんですよ。これがめちゃくちゃ面白いんです。それこそ、先ほどお話しした璃奈ちゃんの夕景カットも、オールドレンズで撮っているために、最新型の高性能レンズでは起こり得ないハレーションが生まれているんですよね。


――光、表情、画角に加えて、レンズも瞬時に判断されていると! ますます一枚の写真に重なる偶然性が愛おしく思えてきましたよ。


岡本 機材に詳しくないとしても、その一枚の裏側でどんな偶然が重なっているかに注目してもらえれば、またさらに、ひとつひとつカットを楽しめるんじゃないですかね。それに、偶然を捉えるのはカメラマンだけじゃない。現場にいる編集さん、スタイリストさん、ヘアメイクさん、マネージャーさん、みんなが思いを乗せることによって、誰も予期せぬ方向に転がっていけるんです。カメラマンのなかには、撮影中、静かに見守っておいてほしいタイプの方もいると思います。でも僕は、積極的に参加してもらいたいタイプ。グラビアは、チームで作り上げていくものですからね。逆に自分のアイデアだけだと、すぐに底が尽きてしまいますよ(笑)。


――この記事を読んで、岡本さんのグラビアをもう一度見返したくなった方も多いんじゃないですかね。なかなか知り得ない撮影裏話をたくさんお聞きしたので、一枚一枚の裏側を細かく想像してみたくなりましたよ。では最後に、今後の展望を教えてください!

 

岡本 とにかく、ずっと撮り続けていたいですね。カメラマンの仕事は、依頼が来ない限り成立しないし、仕事をもらえなければ、何者にもなれません。特に僕は、学園祭に近いノリで、みんなでひとつのものを作るのが好きだから、仕事で撮影をお願いされてこそ、楽しく撮影ができているんです。何なら撮らせてもらえるのであれば、撮影料がなくてもいいとすら思うことがあります(笑)。もちろんちゃんといただきますけど、お金は二の次というか。撮らせてもらえることが、いちばんのよろこびですよね。もう感謝しかないです。


――岡本さんって、純粋に写真がお好きですよね。カメラマンさんみんなそうだとは思いますが、いろいろお話を聞かせてもらって、とりわけ好奇心の強さを感じます。



岡本 はい、好きですね。欲を言えば、写真以外のことはやりたくないです。っていうと、奥さんに怒られるんですけど(笑)。大学時代に写真を撮るようになってから、ずーっと夢中にさせられていますよ。


第8回ゲストは、えなこのコスプレグラビアや吉田あかりの初グラビアを撮り下ろしたLUCKMAN氏が登場! 2022/4/8(金) 公開予定です。お楽しみに!!


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岡本武志プロフィール

おかもと・たけし ●写真家。1981年生まれ、東京都出身。

趣味=野鳥観察、珈琲を淹れること

写真家・熊谷貫氏に師事し、2010年に独立。

主な作品は、中島早貴『なかさん』、吉岡里帆『13 notes#』、武田玲奈『タビレナtrip1,2,3』、牧野真莉愛『Summer Days』、齊藤京子『とっておきの恋人』、花咲ひより『Metamorphose』、ゆきぽよ『はじめまして』など。ほか、小西詠斗『瞬間』や近藤頌利『軌跡』など、男性俳優の写真集も担当。光を鮮やかに捉えた作風が特徴。


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